killer

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「今からお前を殺す」 その低い声が、僕の鼓膜を震わせた。 目の前のリヒトの手には、鈍色に光るコルトガバメント45口径。 対峙する僕の手にも、同じ物が握られている。 かつては朝鮮戦争で使われたというそれは、シウが僕に与えてくれた初めての仕事道具だった。 「なぁ、愛」 不意に彼が口にした、僕の本当の名前。 かつてと同じ様な柔らかな声色で僕の名を口にした彼の顔は、幾分穏やかに見える。 彼からの言葉が、続く。 いつかと同じ言葉だ。 「殺すのと殺されるの、どっちが幸せかな?」 僕は銃口を真っ直ぐ彼に向けたまま、すぐに答えた。 「愚問だよ。どちらだとしても、僕らに幸せなんて訪れない」 それは、あの日あの場所から逃れたはずの僕自身がずっと感じていた思い。 「この世界に希望なんてないように。ねぇ、ユタカ?」 僕の言葉を聞き終わらないうちに、リヒト…否、ユタカは口元に笑みを浮かべた。 ふっ、と乾いた笑みを含んだ言葉が続く。 「どこで間違えたんだろうな、俺たち」 「…どこで?」 質問の意図が掴めずに僕は同じ言葉を口にした。 ユタカが続ける。 「広く希望に満ちた世界を目指しただけのはずだったのに、な」 そう。 広く希望に満ちた世界を、目指していた。 大好きな、ユタカとー… 「ユタカの言うとおり、僕たちがどこかで何かを間違えたのだとしたらー…」 ユタカが僕を見る。 僕もユタカを見る。 言葉を続けた。 「僕らがこの世に生まれ落ちたことが、そもそもの間違いだったんだよ」 ユタカは、ははっ、と声を出して笑った。 笑った、はずだ。 でも、その声が僕の耳に届くことは無かった。 ユタカの笑い声は 銃声に かき消されたから。
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