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「彼、結婚してるの?」
こくりと彼女が頷く。
まずいのではない、と思った。
彼女が真斗さんへの想いをこじらせ、家族へ手を出してしまったら……。
そんな悪い想像をして背筋がぶるりとふるえた。
「もうやめときなよ。好きなのは分かるけど、美咲にとってもよくないよ……」
どうにかしてとめなくては、と思って出てきた言葉はとてつもなく平凡なものだった。
こんなのが響くわけないというのはわかりきっていた。
「わかってるの。でも、どうしても好きなの……。彼らが幸せそうに毎日を生きているのをずっと見守りたいの」
引っかかる言い方だった。
「……彼だけじゃなくて、彼の家族のことまで好きなの?」
美咲がもちろん、とうなずいた。
「あんな理想の家族いないよ。あったかくて幸せで可愛くて……ああ、私ずっと見てたい!いっそあの家の壁にでもなれたらいいのに!真斗さん、今日はお仕事忙しそう。百合さんったら洗濯物干すの忘れてるよ。雄太くんお菓子食べ過ぎてるよ……」
耐えられないというようにスマホを握りしめ、画面に釘付けになっている美咲が熱のこもった声で言う。
あの画面の中には盗撮している映像が流れているんだろうか。
よくないことだ。人の生活を盗み見るなんて。
だけど、ふと思った。
ドラマや映画を見るのと何が違うんだろうって。
他人の生活を盗み見てるだけ。何か害をなそうなんてとんでもない。
だってそこには愛と興味しかないんだから。
今日はいい天気だから洗濯物がすぐ乾きそうだなと思った。
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