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その日の夜。
夕食を終えたバルバラは最愛の妹の宿題を見ていたら、リビングに来るようにとメイドに呼ばれたので2人で行くと、両親と士官学校を卒業したばかりの長兄 ローレンツが居た。
大好きな長兄が帰って来ているのに気付いたギーゼラは、ローレンツに飛び付く。
「お兄様!!」
「ギーゼラ、少し見ない間に背が伸びたか?」
「どうしてお帰りに?」
「ギーゼラ、座りなさい。今からお父様から大事なお話があるのよ。」
母 クレールに言われて、ギーゼラは母の隣に座り、バルバラはギーゼラの隣に座った。
「我がイーヴァ王国がウィンドゥ王国とノートランド王国と協定を結び、連合軍が結成された事は知っているな?」
「はい、今朝の新聞で見ました。」
「そうか……。我が第1歩兵師団の派遣が決まった。来週には敵地へ赴く。」
父 ハインリヒの言葉にギーゼラはスカートをぎゅっと握る。
「相手はヴァンボルト共和国、いくら我が第1歩兵師団が陸軍最強と言えども、厄介な相手には変わりない。あのウィンドゥ王国の陸軍が手を焼いていて戦局はあまり良くないようだ……。だが、陸軍最強の名の元、必ず勝利してみせる。」
不安で小さく震えるギーゼラの肩をバルバラは優しく抱き締めてやる。
「あなた……ローレンツも敵地へ赴くのですか?」
「母上、私は第1歩兵師団の士官です、武門のオーネット家に生まれたからには……士官学校に進んだ時から覚悟は出来ております。」
「クレール、ローレンツは配属されたばかりで実戦経験が無い。なので後方支援を行う。だが、後方支援も立派な任務だ、怠るなよ?」
「勿論です、父上。」
「お兄様……。」
ギーゼラはバルバラにしがみ付き、遂に泣き出してしまった。
「嫌です……お父様も、お兄様も、行かないで……。」
そんな末妹にローレンツは歩み寄り、バルバラの胸に顔を埋めるギーゼラの頭を優しく撫でてやる。
「ギーゼラ、お前に厳しい事を言うかもしれないが。俺たちオーネット家は国の安寧を守る責務がある。軍に所属している以上は命を掛けて、国と国民の安寧の為に戦うんだ。」
「嫌です……お兄様……行かないでっ!!」
ギーゼラは泣いたまま、ローレンツに飛び付いて声を上げて泣き出す。
「ギーゼラ、必ず帰ってくるから。必ず勝ってみせる。それまで母上と姉上を頼んだぞ。」
「ギーゼラ。私たちのお父様はね……先のラヴァル公国との戦争の時、敵方の砦へ下水道を使って侵入して陥落させるし、あちこちでゲリラ戦をけしかけるし、戦闘員が多い地区は相手が油断しているだろうからって少数精鋭部隊を潜り込ませて、弾薬庫やら火薬庫に火を付けさせて相手の混乱に乗じて陥落させるような凄い人なのよ。そんな人を派遣するぐらいなんだから負ける訳ないわ。」
「その説明、いま必要か?」
「お父様はそれだけエゲツない闘い方をして相手を翻弄させる、闘いのプロだから大丈夫だという事をギーゼラに教えてるんですわ。」
「何言ってる、井戸にヒ素や劇薬を放り投げないだけまだぬるいわ。」
なんだ、この親子。
父と妹のやりとりを見て、ローレンツは少しだけゲンナリした。
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