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「ギーゼラ、おいで。」
ハインリヒは優しく末娘を呼ぶ。
ローレンツに促され、ギーゼラは父の元へ行く。
ハインリヒはギーゼラを抱き上げて、膝の上に座らせた。
「さっきバルバラも言っていただろう?負ける気はしない、必ず勝って帰ってくる。それまでお母様とお姉様を頼んだぞ?」
ギーゼラは目に涙をいっぱい溜めて、ハインリヒの首にしがみ付いた。
「ギーゼラ〜!私が居るじゃない!!お父様とお兄様は大丈夫なのよー!」
バルバラは父にしがみ付くギーゼラをそのまま抱き締める。
半成人女性の娘にのし掛かられると流石に重い。
「お姉様……お父様が苦しそうです。」
「こんな事ぐらいでお父様が根を上げる訳ないでしょー!?そこまで軟弱じゃないわー!」
(こいつは俺の事をゴリラかライオンと思っているのか?)
それでも父が可哀想だとギーゼラに言われ、バルバラはしぶしぶ離れた。
「お父様、お兄様。必ず帰って来て下さいね。御武運をお祈りしております。」
「ありがとう、ギーゼラ。
クレール、長らく留守にするが……頼むぞ。」
「はい、お任せ下さい。」
ハインリヒは妻の手を強く握りしめた。
翌日。
泣きすぎて目が真っ赤に腫れてしまったギーゼラは、クレールが大事を取って学校を休ませた。
バルバラは最愛の妹がそんな状態なので、自分も学校を休んで世話をする!と騒ぎ立てたのだが、無事にクレールに追い出されて登校した。
そして昼休憩。
この日はエウヘニアとデボラと3人で昼食を摂った。
バルバラ「酷いわ、お母様も。ギーゼラがあんな状態で私には学校に行け、ですって。」
エウヘニア「お母様が付いているんだから大丈夫でしょ?」
バルバラ「昨日、お父様とお兄様が帰って来たの。来週には敵地に赴くって……。ああー、ギーゼラは大丈夫かしら……。今もきっと胸が締め付けられて……早く帰りたい。」
デボラ「お母様が付いてらっしゃるんだから大丈夫じゃない?」
さっきからバルバラがこの調子だ。
エウヘニア(そろそろコイツを病院に連れてった方がいいか?精神科か心療内科か?いや、医者がコイツの治療が出来るかどうか……。)
エウヘニアがそんな事を考えていると……。
「やはり妹、というものは可愛いものなのですか?バルバラ先輩。」
3人が振り返ると、中等部3年のエレノア・レティ・タリアン公爵令嬢が居た。(カフェテリアはちょうど中等部と高等部の間にあるので、必然的に中等部の生徒たちも此処に来る。)
いくら後輩だと言っても、家柄の序列でいえばエレノアの方が格上だ。3人が挨拶のため立ち上がろうとすると、エレノアはアワアワと慌てた。
「ご、ごめんなさい!たまたま聞こえて来たもので!あの、ウチも弟か妹が産まれるもので!それで!」
エレノアの継母 ディーヴァ・マリー・タリアン公爵夫人がこの度、懐妊した。
末っ子のエレノアにとって弟もしくは妹は未知の領域なんだろう。
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