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「これ、だったんだね……」
『見ちゃったんだね……』
「柿谷くん、見た。彼女といたぁ……」
『だから行くなって言ったのに……。バカ……』
「自分にバカって言うなぁ……」
自分の目から涙が流れるのがわかった。
「30分後の私」も同じ光景を見たんだろう。そして、同じ思いをさせまいと電話をしてくれたんだろう。
「もし……、あと5分、私が駅のホームに待ってたとしてさ、そしたら柿谷くんの姿を見なかったよね? そしたら、そしたら……そっちの私は、そっちだけ悲しみを抱えた夜にするつもりだったの?」
『……そうだよ』
「そんなのズルくない? 悲しいことを私だけ避けるなんて、同じ自分なのに……」
『ほら、私って自分思いだからさ』
電話の向こうで笑う声がした。私は涙を拭って笑った。
せっかく忠告をもらった立場ではあるけれど、さっき駅のホームであと5分立ち止まらなくてよかった。
もし立ち止まっていたら、私は私の史上最大最悪の怪我を気づいてあげることができなかった。
今日はこの後もいっぱい「30分後の私」と話していたい気分だった。
恋は砕け散ったけれど、秋の風は少し冷たかったけれど、私は私に支えられて帰ることができた。
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