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第四章 夏草に埋もれて 四
感染する悪夢も気になるが、まず目の前にいる龍之介に対応しておきたい。
世の中には、幾つもの悪夢があり、最初に遭遇する衝撃は凄いが、乗り越えてゆかなくてはならない。
「龍之介は、絵を描くのでしょう?」
「……はい」
俺は美術には疎いが、時代を越えて存在し続ける絵画には敬意を持つ。それは、中に封じ込められている、気迫というものの凄さを知るからだ。これが、天才なのかと五感で分かる。
「この恐怖を抜けて、人々が極楽浄土に行けるような絵を描かないといけない……」
「絵で描く?」
龍之介は虚ろな眼差しで、真っ白なキャンバスを見ていた。
「龍之介には、そこに悪夢が見えているのでしょう?それを理解し、更に先に進め」
「天使?」
俺の背中で、ハクがもぞもぞと動き、片羽をはばたかせると、もう一方を壁にぶつけた。ゴキという嫌な音がしたが、骨は折れていないだろう。でも、気になるので羽を掴むと、ぶつけた場所を確認しておいた。
ハクはぶつけて痛かったのか、シクシクと泣いていて、撫ぜていると泣き止んだ。
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