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沢渡は少し迷って美萌咲をチラッと見てから、踵を返して走り出す。その足運びはいかにも走り慣れている人の歩幅で、美萌咲は去っていくサッカー少年の背中をドキドキしながら見送った。
「沢渡、西田と何の話してたんだよ?」
「あー、漫画の話」
「あいつ陰キャじゃん!」
沢渡が合流した男子グループの会話が聞こえてくる。美萌咲を「陰気キャラ」と称した男子が肩越しに振り向き、しまったという様子で首をすくめた。
いつまでも見ていると変に思われそうだ。くるりと向けた美萌咲の背中に、
「共通の趣味ってやつがあんだよ!」
そう答えた沢渡の、最近少しかすれ気味の声が届いた。
「沢渡が好き」
そう答えられたらよかったな。
運動靴のゴム底を焼くようなアスファルトの歩道を歩きながら、美萌咲は考えた。
沢渡はいわゆる「陽キャ」で、運動全般が得意なうえに勉強もできる。サッカーやバスケの時は女子にもパスを回してくれるし、ドッヂボールで当てやすい子を狙ったりしない。そういうさりげなく優しいところが、みんなに好かれている。
目立たない存在の美萌咲にも気さくに話しかけてくれて、漫画やアニメの話で盛り上がると15分の休み時間があっという間に終わってしまう。
好きだからいいところばかりが見えるのか、その逆なのかは分からない。美萌咲が密かに沢渡を目で追うようになってから、1年が経つ。その彼から「気になる」と言われて、嬉しくないはずがない。それでも、すぐに返事をできなかったのには理由がある。
クラスに何人も、沢渡を想っている子がいることを知っているからだ。
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