安楽死推進向上委員会

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安楽死推進向上委員会

 桜散る。それは四月。それぞれの道を進む者たちが期待に胸を膨らませる季節。路肩に積もった雪は薄汚れているが、その下を流れる雪解けの水は傍目にも澄み切っている。汚れを知らないものは人目には付きにくい。逆に汚れたものほど、人の目を引く。  中学生となったばかりのタカラがその事実をまじまじと見せつけられるのは入学してすぐのことだ。  タカラの小学生のときから報道は賛否両論の議論を重ねていた。進む高齢化や貧困化に重税。政治が対処しなければならない事案は山ほどあるが、ある学者が唱えた説が日本を二分する。  高齢者や障害者は間引きするべき。その一言から端を発し貧困化は国民縮小により解決されるだと、人口が多過ぎるから貧富や学力の差が顕著になるのだと一部の学者が論じた。  また一部の学者は生命が最優先されるべきと論じたが政府の選択は間引きだった。  それを可能にしてしまったのが安楽死推進向上薬『とける』という錠剤。  タカラはその新薬の開発の報道は目にしたが、実際に実装される時期は国民のほとんどが知らなかった。安楽死推進向上委員会の名を聞いたのは中学生になったばかりの春のことだ。
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