さようなら

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「―――・・」  声のする方へと視線を彷徨わせると、窓辺に腰を掛けている第2皇子の姿がそこにはあった。  両腕には枷がされており、目隠しをされているその様子からかなり警戒されているのだろう。まさか、幽閉されている間は、ずっとこの状態なんだろうかという疑問がわく。  そんなことをされたら、改心するどころかもっと精神が可笑しくなってしまいそうなものだけれど。いくら大罪人とはいえ、この国の法律から言って第2王子がされる扱いには見えない。 (でも。第3王子をも殺しているというから、特別措置としてあり得ることなのかしら) 「まさか来てくれるなんて思わなかったよ」 「私も、来る気はなかったなんだけどね。 貴方たちは、一度帝王学なんかじゃなくて、人の心ってものを学んだ方がいいわ」 「ーー成程。 ぁあ、まったく兄上はあまい人だね」  嫌味のつもりで言ったことだったのに、第2王子は嬉しそうにクスクスと笑っている。何がそんなにおかしいのだろう。 「ねぇ、おねぇさん」 「何よ」 「僕ね、今世ではおそらく、もうおねぇさんに会えなくなるんだ。 だからさ、少し昔話に付き合ってよ」  ーー?  珍しく随分と、弱気なことを言う。  そう思った。  この第2王子がここまで派手に色々やらかせたのは、本人も理解しているからだ。  皇帝の血筋を引くものは、いかなる理由があろうとも処刑されない。ましてや、第2王子はまだその派閥の者たちにとって利用価値があるはずだから減刑の為に多くの者達が手を回すだろうし。  まぁ、どんなに頑張ったところで、やらかしてバレたことを考えると、20年は幽閉されるだろうけれど。 「・・・・・」  ・・20年は、大きいか。 「前世の僕はね、幼いころから自分がどこか人と違うことをわかっていたよ。 そのことに、初めに気付いたのは父の寝首をかいて殺してからだ」 「何で、そんなことしたのよ」 「ふふっ、驚かないんだね。 これ話した人は皆、驚いて僕のことを怖がっていたけど」 「今更、貴方のやることに驚いていたらきりがないもの」  そう返せば、第2王子は「違いない」とまたおかしそうに笑い始めた。 「父は、母に暴力をふるう人だった。 やり返せばいいのに、母はそれを何も言わず受け止めている人で、いつも苦しそうに泣いているだけ。 だから、僕はーー・・」 「お母さんを助けるためにやったのね」 「そう。 母の為だったから。 僕はそれを褒めて貰えることだと思っていたよ」 「・・・」 「でも、それから、母は僕を気味悪がって、施設に捨ててった」 「・・・」 「その時だよ。 人殺しは、他人に知られたらダメなことなんだって気付いたのは」 「じゃあ、どうしてーー・・」  あの時どうして、私の前で人を燃やしたのーー・・。  嬉しそうな表情で、私を同類だとそしって、おかげであの時のこと、生まれ変わってもずっと覚えたままだった。  覚えているから、誰も、信じられなくて。あんなに私に良くしてくれるルイスさえ遠ざけることでしか、幸せにする方法が思い浮かばない。 「おねぇさんが、僕と同じになれば良いと思って」 「?」 「おねぇさんのことを見かけたときから思ってたんだ。 この人は何て、可愛い泣き顔をする人なんだろうって」  ーーその言葉に、背筋が凍ったのは言うまでもない。 「・・。貴方の言うことは、一生理解できそうもないわ」 「ははっ。それは残念」  
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