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「まずは乾杯!」  会社のすぐ近くにある人気の焼き鳥屋は、平日の午後6時なのにもう満席だった。とりあえず頼んだ生ビールのジョッキをカチンと合わせて、四人で喉を鳴らしながらゴクゴク飲み干した。ここ数日猛暑日が続いていたから、キレのある風味が体に染み渡った。  今日の幹事は会社の同期の絢子だった。私と、絢子の彼氏の斉藤さんと、その後輩さんの四人で暑気払いをすることになった。ビールと焼き鳥が好きなメンバーということで、私とその後輩さんが選ばれた。 「まずは自己紹介ね。ほら、麻美」と絢子が仕切った。 「あ……、森麻美と言います。絢子と同期です。同じ総務課に勤めています」  ビールのジョッキを見つめたまま話した。 「はい、麻美ちゃんね、よろしくな!」と斉藤さんは握手を求めてきた。私もつられて手を出した。絢子から話には聞いていたが本当に楽しい関西人だ。人見知りの私にはこれくらい明るいほうが助かる。 「では次の方」  斉藤さんはお絞りをマイクにみたてて隣の後輩さんに向けた。本当に面白い。 「はい、松本義之です。斉藤先輩の一つ後輩になります。部署は先輩と同じ営業部門です。今日は大好きなビールと焼き鳥が食べられると言うので、さっさと仕事をかたずけて来ました」  穏やかな口調の松本さん。同じ会社なのに全く接点がなかったのが不思議だ。切れ長の目元が特徴的で、第一印象は話しやすそうでさわやかだ。
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