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家の近くで丹野と別れる。
私も丹野も実家暮らしだから、会おうと思えばいつだって会えたのだ。
そして就職すると同時に、都会で一人暮らしを始めた篤志とは、その頃からお互いの気持ちが離れ始めていたことに、薄々気づいていた。
高校生の頃から付き合っていた篤志と別れたのはつらかったけど、こうなることはもうだいぶ前からわかっていたのだ。
「じゃあ、ここで」
そっけなくそう言って、背中を向けた丹野を、あわてて呼び止める。
「あ、あのさっ!」
ゆっくりと振り向いた丹野に、私は何を言おうとしているのだろう。
「今度二人でどこか行かない? う、海とかさ」
言ったよね、さっき。
篤志との思い出全部、あんたが書き替えてくれるって。
振り返った丹野が、私の前でいたずらっぽく言う。
「どうしようかなぁ? 俺お前みたいに、ヒマじゃないしなぁ」
「あんたねー」
おかしそうに笑った丹野が、私に向かって言った。
「じゃあ明日、海に行こう。お前の家まで迎えに行くから。二日酔いでバテてるのとか、絶対ナシだからな!」
「え、ちょっと待って……あ、明日ー?」
満足そうに笑いながら去って行く、丹野の背中を見送った。
なんだか最初から全部、丹野の計画に、はめられてるような気がしないでもないけど。
「ま、いっか」
小さく息を吐いたあと、さっき二人で見上げた夜空を、一人で見る。
この先作られるたくさんの思い出が、丹野と一緒だったら――それも悪くはないな、なんて思った、真夏の夜だった。
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