自由と決意

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自由と決意

それから、しばらくして、また神はやって来た。 「答えは決まったか?」 後輩と並んで首を垂れる僕は、「はっ!」と元気に返事をした。 「決まりました。主よ」 「ほう。では、聞かせてくれるか。其方の望みを」 「主は、僕がどうするかは自由に決めていいと仰っていました。考えて、そして決めました」 僕はすうっと息を吸うと、覚悟を決める。 「僕はこれからも転生者を導きたいです。後輩と一緒に」 チラッと傍らに視線を向けると、後輩は首を垂れたままでいた。 けれども、肩は震えていたのだった。 しばらく、神は考え込んでいたが、やがて「そうか」と頷いただけだった。 「それが、其方の生き方か」 「はい。主は仰いました。僕は自由だと。それなら、僕はこれからも転生者を導きたく思います」 僕は今の仕事を誇りに持っている。 この仕事が出来るなら、神のなりそこないと罵られても構わない。 一人で全員の転生者を相手しても構わない。 好きに生きていいならば、僕は今の生活を続けたいと考えたのだった。 「それならば、これ以上は何も言うまい。これからも精進せよ」 「はっ!」 神は口元を緩めて満足気に微笑むと、去って行った。 それを見送ると、いつまでも首を垂れている後輩の方を振り向く。 「いつまで、そうしているんだ。主は帰られた……」 「良かった……! 良かったっす! これからも先輩と一緒にいられて〜!」 ようやく顔を上げた後輩が、号泣しているのを見て、ギョッとする。 どうりで静かだと思っていたら、泣いていたのか……。 「わかったから、もう泣くな」 「そうは言われても、止まらないっす。一度泣き出したら止まらないっす。これが嬉しいっていう事なんすね。感動しても涙が出るというのは本当なんですね……!」 「そうだな……」 鼻をグズグズさせる後輩を慰めていると、遠くから「ここはどこだよ……」という声が聞こえてきた。 どうやら、新しい転生者が来たようだった。 「ほら、仕事だ。行くぞ」 「待って下さい。先輩!」 今日も仕事が始まる。明日も、明後日も。 異世界への道先案内人と、その先輩を。 頭を押さえて蹲っている派手な格好の若者に近づくと、僕は話し出す。 「やあやあ、ようやく目が覚めたようだね」 「目が覚めたみたいっすね」 僕はいつもより、少し抑揚のある声で話し出したのだった。
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