ハル・シオンと炎の街。

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わたしは父母がそろって健在で、厳しく躾られて、優しく育てられた。血は繋がっていないにしても、きょうだいはたくさんいて、多くの大人に見守られてここまで生きてきた。 この身の幸福さを思うたびに、自分のからだになにかしらの痛みがほしくなるときがあった。 傲慢だとわかっていても。 「……ごめん、ハル」 「なによ。大変だったのはロジンの方でしょ」 「でも、ハルに言うべきじゃなかった。ハルに優しくするために来たのに」 ロジンの指先に触れる。素肌に触れることができるのはお互いだけだった。 「ロジン。あのね、わたしは傷つかないから平気なの。ぜんぶ平気」 「……ハル」 「……そういうことに、したいわ。わたしは、そういう存在になるために生まれてきた」 旅団の総領娘として。強い娘になるべくして、わたしは育てられた。 「あんまり、辛いと思ったことは、ない。まだ。でも、旅の途中以外だったら、温かい食事をおなかいっぱい食べさせてもらって、正しい知識を与えられて、家族に恵まれて……わたし。わたしは。どんな時でも傷ついたらいけないと思う。どれだけ辛いところに行っても。じゃないと、この生まれであることの幸福さと釣り合いがとれない」 ため息をひとつ。ロジンの肩にもたれる。 「……でも、疲れちゃうわね」 「うん」 「だから、来てくれて嬉しかったの。ありがとう」 「どういたしまして。少し休んでいこうか。昼ごはん前になったら起こすから」 「うん……」 己の傲慢さが憎い。 「ロジン。本当にありがとう」 わたしの肌に触れるために毒をからだに入れた、彼に、わたしはいったいなにを差し出せばいいんだろう。
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