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前のめりになったわたしを、チオラは小さく笑う。
「教えるもんか」
「いじわる。リーダイに聞くわ」
「たぶん、リーダイの方が意地でも教えないと思うけど。聞いてみればいいよ」
おそらくチオラの言うとおりになるだろう。つまんないのと呟いて、牛乳と砂糖の甘みを飲み込む。
「ハルは……、」
ふっとチオラの目が遠くに行く。チオラの目は、誰よりも濃い青色。
「ロジンが探してる。行っておいで」
「でも、仕事の途中だわ」
「いいよ。もう後は乾かすだけだし。ロジンだってハルが仕事中ってわかってるんだから、そんなに長くもかからないと思うよ」
少し考えてから、行ってくる、とチオラに告げる。白いスカートから菓子くずをはらい落として、歩き出す。
「ハール」
チオラが、彼特有の抑揚でわたしの名前を呼んだ。西の生まれの彼は、言葉の伸ばし方が少し独特だ。
「ぼくはね。そういうかすかな不安は、婚約者にすべて話すのがいいと思ってる」
「チオラ」
「ぼくなんかに言うんじゃなくてね。婚約者のロジンに言うんだよ」
「……ん」
なんとか笑って、うなずいた、と、思う。素っ気ないほどの速さできびすを返して、すたすた歩く。やれるもんなら、言えるもんなら、とうの昔に言ってるわ、と胸中で呟く。
頬をぐいと掌底で持ち上げる。いつも通りの顔をしたかった。膝下の丈のスカートを蹴り飛ばすみたいにして足を進める。
「ハル。どうしたの」
「んーん。なんでもない。どうしたの、ロジン」
「いや、ちょっと伝えないといけないことがあって」
蜜色の瞳が、わたしの顔色を探る。なあにとすっとぼけて、なんにも言われないように無言のうちで強制する。
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