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電車は再び動き出す。
横目で雪美を伺い見ると、丁度彼女も僕のほうに視線を向けたところだった。
「なんかさ、将ちゃん、当たり前にサラッと普通に自然に、来年とか言っちゃうんだもん」
「ん?」
「そういうの、ちょっとドキッとするお年頃なんですよーだ」
「なんで?」
「わっかんないかなー?」
どうせ僕は女心に疎いですよ。
はっきり言ってもらわないと伝わらない。
「プロポーズだって受け取っちゃうんだからねー」
「なんでやねん!?」
「あっ、関西弁が出た!」
雪美は照れ隠しのように、小声だけれど大げさに笑った。
そんなことより、どこをどう解釈すればプロポーズになるというのだ!?
「来年も一緒にいられるってことでしょう?」
「あぁ、うん」
「将ちゃんが、なんの違和感もなく未来のことを考えてくれるのが嬉しいなーって思ったら、ドキドキしちゃった」
なるほど。
怒っていたわけではなく、照れていたのか。
「そりゃまぁ、わざわざ東京から実家まで連れていくんだから、ねぇ?」
「やっぱりプロポーズじゃん」
「アホか」
「また関西弁だ~」
今度は僕が照れる番だった。
電車の音に負けないぐらい、心臓が煩く鳴り響いている。
「まぁ、そのうちな」
「楽しみにしてるね」
「お、おう」
さて。
今更ながらに、雪美をどう両親に紹介すべきか心配になってきてしまった。
彼女も一緒に帰るとは伝えてあるけれど。
「やっぱり今のが、そういうことにしちゃだめか?」
「えー? ちゃんとオシャレなレストランとかで言ってよ」
「そんなの柄じゃないって」
「たしかに」
夜景の見えるホテルかなんかのレストランで、花束と指輪を持って跪く自分を想像してみる。
雪美も同じことを考えていたのか、2人とも笑ってしまった。
僕たちには一生縁がなさそうなシチュエーションだ。
「まぁ、もうちょっとちゃんと言うつもりだけどさ。そういうつもりではいるから」
「うん」
「雪美もそう思っておいて」
「うん。ありがと」
お互いに照れくさくて、顔をそらしてしまう。
まさか、電車の中でこんな話になるとは夢にも思わなかった。
いまからこんな調子じゃ、今年の帰省は一体どうなってしまうのだろうか?
雪美といると、いつも予想外のことが起きる。
きっとこの先も、振り回されつつも楽しい未来が待っているに違いない。
僕はそれを想像しながら、窓の外へと視線を移した。
fin
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