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僕たちの行く先は
徐々に速度を落として、やがて僕たちを乗せた新幹線が止まる。
ドアが開いた瞬間、湿った暑苦しい空気が肌に纏わりついた。
一瞬で噴き出してきた額の汗を手の甲で拭いながら、ホームへと降り立つ。
ーーあぁ、帰ってきたんやな、盆地に。
毎年、同じことを思ってしまうぐらいに馴染みのある温度と湿度ではあったが、暑いものは暑い。
「京都の夏、なめてたかも」
すぐ後ろから雪美の、今にも溶けてしまいそうなほど頼りない呟きが聞こえてきた。
「だから覚悟しとけ言うたやろ」
「あっ、珍しい! やっぱ地元に帰ってきたら関西弁に戻るんだ?」
小走りに隣にやってきて顔を覗き込まれる。
期待するような眼差しを向けられても、返答に困ってしまうじゃないか。
人の流れに身を任せながら、エスカレーターの列に並ぶ。
「そっか、関西は右側に立つんだよね」
うんうん、と1人で何やら納得している雪美は、もうこの暑さに慣れたのだろうか。
いや、物珍しさのほうが勝っているのかもしれない。
彼女が今ここにいることが、なぜだか少し照れくさい。
思わず口元が緩みそうになるのを、汗を拭うことで誤魔化す。
いつもなら、1人でしていた帰省だ。
でも、今年は違う。
「大仏が見たい。連れてって」
雪美が突然そんなことを言い出したと思ったら、あれよあれよという間に計画が立てられ、僕の両親に挨拶をするところまで話に組み込まれていたのだ。
この調子じゃ、気づいたときには結婚していた、だなんてことになりかねない。
何事にも腰が重い僕に対して、雪美は考えるよりも先に行動を起こしてしまう。
危なっかしくて目が離せない反面、少しだけ羨ましいと思う。
今だって表示番の案内を頼りに、僕よりも一歩先を軽やかに、なんならスキップでもしそうなぐらいにウキウキと近鉄線のホームへと向かっている。
中学の修学旅行で一度来たことがあるらしいけれど、その頃とは駅の様子がだいぶ変わっているはずだ。
それなのに、よくそんなに躊躇いもなく進めるものだと感心する。
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