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番外編-おバカもおバカ好きもこりるということを知りません
「ねえ、ランスール。ペガサスとかユニコーンもスライムと同じような方法で肥育するのかな?」
有名菓子店で買い物中のタチくんの目の前にはパッケージにペガサスの描かれたスイーツボックスが。
ユニコーンはそのツノが薬になるので、帝都と北方のヨラリス神国に牧場があるが、数年に一度も目撃情報のない超レア霊獣であるペガサスの牧場なんか聞いたこともない……ってことに気付いてないタチくんが可愛い。
「スライムとは手法は違うけど、理屈は同じでユニコーンに魔力を与えて育ててるね」
スライムと同じようにユニコーンに唾を吐きかけ育てようとすれば、蹴られて即死だろう。
「ふぅん。じゃあ、僕、ランスールがユニコーンの肥育してるとこ見たい。この前もらった契約の魔道具に書いていい?」
「ああ、帝都のユニコーンファームなら、俺が頼めばタチくんも見学できると思うよ」
タチくんの顔に『なんでお前が頼めば見学できるんだ?』って書いてるけど、疑問に思ってもサラッとスルーしてしまう、この気にしなさ加減、本当清々しいなぁ。
「ふぅん。じゃあいま書くね。えーっと、書くときは口語体だよね」
タチくんは文章センスが独特だ。
小さい頃、古い文体で書かれた神話の本が大好きで『全く意味はわからないけど単語が素敵……!』と思いながら書き写していた結果、文章センスがよくわからない仕上がりになった。
本人の意図することと、文面の解離が甚しくて、とても面白いけど実用的でないところが問題だ。
だけど急に口語体を覚えたらしい。むしろなぜインペリアルカレッジ時代に覚えなかったのか。本当にタチくんは興味が尽きない。
「よし、じゃあ『帝都のユニコーンファームでランスールがユニコーンの角をお尻に入れているところを見たい』」
「だっっ!ダメ!ダメ!ダメっっ!死ぬっ!それひと突きで死んじゃうからダメ!!!!」
どうにか契約の魔道具に書く前に止めることができた。
タチくん……ユニコーンをスイーツボックスのパッケージで見てるからサイズ感を全然わかってないんだな……。
ユニコーンは大きい軍馬よりさらに一回り以上大きくて、角の太さは成人男性の腕くらいあって一番細い先端だって指三本分、長さは60センチから1メートル以上まで。
気軽に尻に入れられるような代物じゃない。
しかも潔癖でプライドの高いユニコーンのことだから、尻にツノを入れようとしていると気付いた段階でとんでもない呪詛を放ってくる危険性が高い。
俺は魔獣全般との相性がいいから呪詛も軽減されるだろうけど、タチくんは魔獣に敬意も興味もないってのがダダ漏れだから、死んだ方がマシって目に合うかも。
「ランスールはお尻に角を入れるのは嫌なの?ユニコーンなのに?」
……ユニコーンなのに?って言われても。
「タチくん、だから魔獣を育てるには餌がわりに魔力を流すだけでいいので……」
「じゃあ、お尻にブラッディハンドは?」
「ゾンビ系……絶対無理!」
「じゃあ、お尻にお化けきのこは?」
「サイズ的に絶対無理!」
「じゃあ、お尻にいっかくウサギは?」
「あー……入りそうなとこ見つけちゃったね……でも無理……」
「むーー!なんだよ、ランスールの我がまま!」
不貞腐れ、プッと膨らませたタチくんの頬を見ると、自然と指を伸ばしブポッと押し潰してしまう。
人前でのブポッ音は、プライドが高いタチくんには恥ずかしいはずなのに、この一連の流れが当たり前になりすぎて全く気にしていない。
こういう隙だらけなとこも可愛い。
「じゃあ、ランスール、何ならお尻に入れていいのさ!!!!!」
……有名菓子店なのに大きな声でそんな……。
「ランスールっ!何ならお尻に入れていいの!!??」
タ、タチくん……。
どうしてプライドの高さと恥の意識が比例しないのかなぁ……。
すごく迷惑だけど、タチくんのこんなお馬鹿なとこにまでキュンときてしまう自分にも戸惑う。
「その返事は、お会計を済ませてからね。買うのはこっちの限定ボックスじゃなくていいの?」
「う……確かにそのボックスは特別仕様のザアラン陶器で素敵だけど1万5千ルゴってさすがに高いし……」
え、タチくんが遠慮してる……!?
「ランスールはインペリアルカレッジ時代のアゼスとかベイトの同級生とかとは違うから……いや、その……えーっと。そ、そうもっと高いものを買わせたいから、今日はこっちのユニコーンボックスでいいの!」
「ああ、なるほど。じゃ、こっちをお会計してもらうね。で、タチくんもっと高いものってなに?」
「え、ええっと……そう、家だよ!それもウチとかランスールが住んでる家とかよりずっと大きなやつ」
珍しくタチくんが言葉に詰まった。
屋敷のトータルコーディネートを考えて、置物になるような陶器の容器の限定品ボックスは要らないってことか。なるほど。
そうだよな。タチくんが俺に遠慮なんかするわけない。
でも、こっちの家ならまだしも俺の住んでいるところより大きな屋敷となると……うーん。
「タチくん、屋敷はこの国じゃなく、帝国直轄領でもいい?帝都の近くのロランダとか。ほら、あの旧ダザンリ王国の」
「え、ここよりずっと都会でオシャレだけど自然いっぱいな花の都?」
「フルーツもあるよ」
「う、うん。まあ、ランスールがいつかお金持ちになったらそこに一緒に住むのもいいんじゃない?」
ふむ。ロランダの利権にはノータッチで旧ダザンリ王国の王宮に住むだけという約束なら、この地方を管理している叔父上から安く譲って頂けるだろう。
広大な宮殿なのに三階建てで部屋数が百数十しかない。つまり神殿のように天井が高く、ひと部屋がとても広い、これ以上なく贅沢な造りだ。
実家である父上の居城よりずっと大きいかと言われるとちょっと微妙だが、計測しなければわからないだろうし、このダリス王国の王城よりは大きいからかまわないだろう。
俺が賜る予定の領地は飛び地が多いからメインの住居は帝都に置くつもりだっだけど、いろんな魔獣牧場に通うには、帝都よりロランダからの方が道が混まず都合がいいしな。
ただ、正直なところ、広過ぎる家は部屋の移動に疲れるからあまり好きじゃないんだけど、タチくんが飽きたら売ればいいだけだしな。
「よし。じゃあ、いつ頃引っ越そうか」
「は……?そりゃ……ランスールが卒業してお金が貯まったらでしょ?」
卒業……アカデミーは飛び級しても卒業するのに二年かかるから……。
「来年だね」
「へぇ、ランスールの通ってる職業訓練校って二年制なのか」
来年にはタチくんと旧ダザンリ王宮にお引越しか。
それまでに調度品の見直しや部分的リフォームをミランディ女史にお願いしよう。
彼女との婚約が破棄になったので、初仕事のはずだった結婚準備がなくなり、早く次の仕事を命じて欲しいって言われてたもんな。
「あ、もし将来大きな家に引っ越す時は、ランスールのお母さんも同居かな?こんなとこに一人で残しておけないもんな」
「母上は……本人の希望を聞いてかな」
もうとっくに帝都に戻ってるし、今更引越しなんて嫌がりそうだ。
こんな話をしている間に、ユニコーンボックスのプレゼント包装が終わった。
艶のある美しい水色の包装紙に銀とピンクのリボンにラメとビジューのついた愛らしい人工花のブーケ。
タチくんは気分が上がるプレゼント包装が大好きなのだ。
その美しい包装の入った袋を俺が受け取り、家に帰り着いてからうやうやしくタチくんに捧げ渡すと小鼻をピクピクして喜んでくれる。
しかも今も包装を見てすでに小鼻をピクピクさせて喜んでる。
同じプレゼントで二度喜んでくれる、この単純さも本当に可愛い。
店から出て、大通りを馬車乗り場へと向かう。
「あ、ところでランスール」
歩き始めてすぐに上機嫌のタチくんに肩を掴まれた。
「お会計を済ませてからって言ってたのに忘れてた。契約の魔道具に書きたいから教えてよ。ねえ、何だったらランスールのお尻に入れていいの?」
お……おぅ……。
「ユニコーンはダメなんでしょ?サイズ的に……いっかくウサギ?オーク?ナーガ?どれでだったらお尻で気持ちよくなれそう?」
タチくん、ここ、大通り……。
「でもオークとナーガはビジュアル的に僕がダメかも。ねえ、ランスールがお尻でイクならやっぱり……」
とんでもない言葉を紡ぎ続けるタチくんの唇を俺は人差し指と中指でそっと押さえた。
そして耳元に口を寄せる。
「俺は……魔獣なんかじゃなく……タチくんの股間の魔法杖がいいな」
……どうにか他人に聞かれても問題ないセリフに収まってるはずだ。
散々とんでもない発言を繰り返していたタチくんは、こんなとこで顔を近づけすぎだと言って真っ赤になっている。
どうにも羞恥のポイントがズレてるなぁ。
「ランスール……それ書いていい?」
「……ああ、もちろん」
この契約の魔道具は書いた内容が当人たち以外には見えない上級仕様だ。
少し……いやかなり恥ずかしいけどタチくんが満足するならそれでいい。
停留所で馬車を待ちながらタチくんがペンを走らせる。
「よし。ちゃんと口語体で書けた!」
ご満悦で書いた内容を見せてくる。
──僕の魔法杖をランスールのお尻に入れてメチャクチャイカせる!十回くらい!
ん……?
「ランスール、来週は魔法杖を買いに行こうね!アゼスとかベイトとか上位貴族でも詠唱魔法を使える人しか持ってないアイテムだからドキドキするよー」
「………………あー。んー?」
こ、これは…………。
魔法杖を置いているのはそもそも富裕層をメインターゲットにしている高級店ばかりだけど、その中でもセザクラスを中心に商売してる超超高級店に連れて行ったら、価格にドン引きしてあきらめてくれないかな……。
とにかく…………なんとしてでもタチくんの魔法杖入手を妨害せねば!
頑張れ俺。
タチくんとの健全な性生活と健康な尻穴のために!!
《終》
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