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僕がこの世界にいる意味はなんだろうか、なんていつも思っていたことだった。
僕が産まれたせいで、母は出ていった。
僕が残されたせいで、父はいつも困った顔をしていた。
僕がいるせいで不快だって、祖母は言った。
人とうまく付き合うことが苦手なせいで、友達もいなかった。
それでも人に迷惑をかけないように、静かに過ごしているつもりだったけど、ある日クラスメートが僕の悪口を言っているのを聞いた。
「周防ってさ、感じ悪いよな。女子たちは騒いでるけど、母親がいない不幸を売りにしてるっていうか?影があるオレ、って感じ。オレらなんかとは住む世界が違うんだぜ、みたいな。」
不幸。
別にそれを他人に見せたつもりはさらさらなかったけど、それを聞いた時に不幸せという言葉は自分にやたらしっくりくるもんだなって思った。
幸せって、きっと温かくてやわらかくて優しくて、そんなふわふわしたものだと思う。
なら、そんなもの知らない僕は不幸なんだろう。
僕がいるのはいつも、1人で、冷たくて、寒くて、淋しい場所だ。
お前なんかいらない子だと面と向かって言ってくる祖母のところに行くよりは、誰もいない家で1人で過ごすことを選んだ。
いつも来ている家政婦さんが作りおきしていくご飯は、いつも僕が食べる頃には冷たくて固くなっていた。
温める術も知らないような幼い頃からそれを食べ続けていくうちに、嫌いな食べ物が増えていった。
祖母に嫌われていることも、ご飯が美味しくないことも、父には言えなかった。
自分がいらない子だなんて、自分が一番良くわかっていた。
なぜ、母が望んだように、女に産まれることが出来なかったんだろう。
無意味だとわかっている、そんな問いは淋しくて堪らない日にいつも僕を苦しめた。
淋しかった。
ただ、淋しさだけがいつも傍にあった。
中学生から高校生に上がる春休みに、父に再婚を考えていると告げられた時も、僕がいなければ父はもっと幸せになれるのにな、なんて思うことしか出来なかった。
家族のふりをする人間が増えたって、それを家族だと思うことなんて僕には到底できそうにない。
どうせそいつらもすぐに僕のことをいらないって思うに決まってる。
むしろもう思われてるかもしれない。
だとしても、もうどうでもいい。
淋しさが支配した僕の心は、満たされることなんて知らなかった。
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