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−−やっぱり、私が作っても下川のアパートで食べてた味とは違う。
・・あの時の味を思い出そうとする。
中華鍋を振るうアイツのたくましい腕が目に浮かんだ。
壁にポスターが大量に貼られたあの部屋で語った音楽や映画。
全てがもう過去のものだ。
今、アイツは私の知らない場所で奥さんの為にあの麻婆豆腐を作っているのだろうか。
・・・
そう思ったら、目が潤んで視界がぼやけた。
「ケイちゃん、大丈夫?」
賢治が心配そうな顔で私を見る。
「え?うん。なんでもない。ちょっと花椒が多過ぎて目にしみたみたい。」
そう、辛さが目にしみただけ。
私がアイツの為に泣くわけがないのだから。
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