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本殿の表側は、今日の祭りが幻だったかのごとく静けさを取り戻していた。
「じゃあ」
「また学校で」
九月になったら、僕と茅咲さんは、何事もなかったようにまた部室で顔を合わせる。
そして僕はちぃと、茅咲さんは市村さんと、何事もなかったようにまた友人の一人として顔を合わせるのだ。
空っぽで臆病な僕等にも、いつかお互い本当に満たされるキスをする日が来るんだろうか。
だとしてもきっと、満月の下で交わした涙味のファーストキスを、僕は一生忘れることはないと思った。
出掛けに兄貴に借りたサンダルは、汗ばんだ足の裏にベタベタと鬱陶しく張りついて。
やっぱり僕は、少し後悔した。
「あーあ……早く終わっちまえ。――夏なんて」
Fin.
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