分かってない【パパ編】 その3-1

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分かってない【パパ編】 その3-1

 電話は、即座にかけた。だが繋がらなかった。  二回、三回、四回、留守番電話サービスに繋がれるだけで、一向に香凛が出る気配はない。  出たくないからと無視されているのか、出たくても出られないような状況に追い込まれているのか。  悪い考えの巡る中、今度はメッセージを入れてみる。 “今、どこにいる” “誰といる” “帰りは何時になる” “早く家に帰って来い”  しかし一向に既読マークはつかない。 “香凛、返事しろ” “何かあったのか” “香凛”  一方的なメッセージがどんどん連なり溜まっていくだけ。  時計を確認すると夜の九時半を過ぎたところだった。  その数字を見つめながら、考え直す。  まだ、九時半だ。早くはないが特別遅い時間でもない。  香凛は一応二十歳を過ぎていて、そんなに口酸っぱく咎められるような時間でもない。  男といるのを目撃したからこんなに慌てているが、本当にその後あの男について行ったかも分からない。危ないことになってるかなんて分からない。全部勝手な憶測だ。  それなのにこんなに連絡を入れたりして、普通に考えたらオレのやっていることは度が過ぎている。  それに、そう、香凛は十分自分の行動に責任が取れる。取れなければいけない。  例え失恋の痛手を癒すのに手っ取り早く新しい恋愛を探していても、それは香凛の自由だし、一つの選択肢だ。必ずしもそれが香凛を損なう訳でもないのだし、横からぎゃあぎゃあ言うべきではない。  そう、オレはもっと香凛を個人として尊重すべきだ。もうちょっと、信用してもいいんじゃないか。  ――――――――そうだ、考え過ぎかもしれない。  冷静さを取り戻しかけた頭が、考えを改める。  連絡が付かないのだって、地下とか電波の入りが悪いところにいるとか、さっきまでは使ってたけど充電が切れたとか、そういう可能性もある。それに案外もう帰路に着いているかもしれない。  門限まではまだあるのだ。大騒ぎすることじゃない。悪い方悪い方へ思考を向け過ぎなだけだ。 「…………ひとまず、帰るか」  もう少し様子を見てもいいだろう。何かを断定するには早過ぎる。  そう思って、家路を辿った。
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