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分かってない その1-1
***
飲み会中の香凛ちゃんからSOS!
なんと参加者の一人からこの後抜けない? って言われてます!
も、もしかしてこれってそのままお持ち帰りされちゃうパターン!?
…………門限破ったら、やっぱ怒るよねぇ?
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えい、と大層ふざけたノリのメッセージを送りつけてやる。
ふざけた文面だけど、嘘は一つも言ってない。全部事実だ。
さて、何と返事が来るだろうか。
ちょっと崩れてた髪を直してから化粧室を出ようとしたら、その前にスマホが振動した。
「おおう、早い……」
新着のメッセージは、もちろんさっきこっちがメッセージを送り付けた相手だ。
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怒るに決まってるだろ。
迎えに来て欲しいなら、ちゃんとそう言え。
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「さすが、言わなくてもお見通し」
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えへ、じゃあ迎えに来て♡
八時くらいには一次会終ります。
***
お店のURLを一緒に貼り付けて、返信する。
今日は金曜日。
向こうは特に飲み会の予定もなかったし、私の帰りが遅いこんな日はすっかり習慣になったジムに行ってるはず。
多分、そしたら車で迎えに来てくれる。
そろそろ一段落した時間だろうと狙ってメールを送ったのは正解だったみたいだ。トレーニングに励んでる間は、スマホはロッカーに入れてるって聞いてたから、タイミングを外すと長らく連絡がつかなかった可能性もある。
そんなことを考えてたら、またメッセージが入った。
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ちゃんと店の入り口で待ってるように。
その場でじっとしてろよ。
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「了解です……っと」
その場でじっとしてろなんて、幼稚園児に言い聞かせるみたいな文面だなぁと苦笑してしまう。
正直この扱い、望みなんてものは全く感じないのだけど、でも私のことを甘やかして優先してくれてる内はそれに全力で乗っかることに決めている。
「でも多分、何にも分かってないんだろうなぁ……」
私の胸の内には、誰にも言えない願いでいっぱいだ。それがきらきらしてるのかどろどろしてるのか、そんなことはもう分からないけど、随分長い間行き場をなくしてぐるぐるしている。
「子の心、親知らずってね」
溜め息混じりに呟いて、席に戻る。
とある講義の打ち上げ。面倒な発表ものだったから、皆解放感がその顔に浮かんでる。
飲み会自体は楽しい飲み会だ。この講義をきっかけに新たに仲良くなれた子もいる。
「宮木さん、こっちこっち」
知り合いの子が呼んでくれてそっちに向かう。
八時までは一時間弱。
そんなのあっという間に過ぎちゃうだろう。
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