PROLOGUE ──ねがい

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PROLOGUE ──ねがい

 “ねえ、ありす…… ”  ──淡い月明かりに照らされた、一面白い壁紙の部屋。  半分程開けられた窓から入り込んでくる冷たい夜風が、ふわりと薄水色のカーテンを揺らす。  その窓際に設置されたベッド──そこに身体を横たわらせる、1人の少女。  ショートカットの白い髪と白い肌、そして紅い瞳が特徴的なその少女の頬は、幼さの残る顔立ちに似つかわしくない程にひどく痩せこけ、鼻や腕など至るところから、何本ものチューブが伸びている。  “わたしには分かる  わたしは、もう……長くはないって………… ”  鈴の音のような少女の呟きは、春風に溶けて消えてしまいそうな程にか細い。  それでも、しっかり音となり空気を震わせる。  “たぶん……もう、あなたとも会えない…… ”  少女以外に誰もいないその空間で、少女は虚空を見つめたまま言葉を紡ぎ続ける。  “これは……わたしのワガママかもしれない  あなたを不幸にするかもしれない  ──それでも、わたしは、あなたに託したい”  震える手を持ち上げる。虚空を彷徨っていた紅い瞳に、僅かに熱が灯る。  ──ふわり、と。少女が伸ばした指先に、1匹の純白のモンシロチョウが舞い降りた。  “だからね、ありす……  わたしの、さいごの「おねがい」を聞いて── ……”  ──誰にも届かないその言葉(おねがい)を、ここにはいない“だれか(ありす)”に届けるため。  純白のモンシロチョウが、月明かりに煌めく鱗粉を振り撒きながら飛び去った──。  
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