【謎解き編】おかめとひょっとこ

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「天狗はさすがに無理があるけど、おかめとひょっとこは箸置きで通せる。そこで彼が100均に行って探すと、花火や法被(はっぴ)、提灯の箸置きがあった。  これなら『夏祭りシリーズ』とか説明すれば、特に違和感は持たれない。西畑君はそう考えたに違いないわ」 「でも、宅飲みではそういう話にならなかった……」  独楽を回してみる俺に、探偵は黙って頷く。 「もともとボードゲームをやる案もあったって安城君は言ってたわよね。西畑君は、その流れに乗じて『実はこの箸置きさ』って切り出すつもりだったのかもしれない。  あとは『何この箸置き、変なの』『このひょっとこの、穴開いてるよ』みたいに話題にのぼるのも少し期待していたと思うわ。だからこそ、持っているのを隠さずに箸置きとして出したんだと思うから」  ワタシの推理はこんなところね、と彼女は右の赤い頬に手を当てる。そして、謎解きを締めるかのように、天狗の表面ギリギリまで片口から酒を流し、「呑兵衛の方へとおもむきゃれー」と小さく歌って自分でグイッと一気に喉に流し込んだ。  立派な謎になるくらい手の込んだカラクリだったけど、西畑の心の動きはよく分かる。  自分の性格を知っているからこそ、ここまで周到に準備をした。露骨に拒絶するような仲間じゃないと分かっているけど、もしいきなりぐいぐいと提案して、イマイチな反応をされたらどうするか。遊んでいる途中も「無理やり合わせてくれてるんだろうか」とネガティブな猜疑心が生まれてしまうかもしれない。  だからこそ、場の流れでスムーズに提案できるように、偽装したのだ。自分からうまく言うことはできない、でも、それでもみんなと遊びたい。その心は偽装しないように、この計画を思いついたのだ。  その場では奏功しなかったけど、ちゃんとこうして、探偵が解き明かしてくれた。その答えは、安城にはどう伝わっただろうか。 「…………」  無言で独楽を触る安城。その表情は徐々に、後輩部員からの激励のメッセージを読む先輩のように明るくなっていく。 「可杯(べくはい)、面白そうですね! 飲みすぎ注意ですけど」 「ふふっ、お座敷遊びらしいわよね」  理香さんと彼は一緒に歯を零した。
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