報復、はじめました

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 王妃が毒殺された。すぐにもその侍女がとらえられた。  殺害の動機は、王妃の高慢な態度にあったとその侍女は証言した。美しくも、身勝手でヒステリックな王妃の振る舞いを知る周囲の者たちの多くが納得した。  一方で、小国ながら政治的に重要な地域に位置した国で起きた王妃の殺害には、他国の干渉も疑われた。しかしながら、真相は不明なまま侍女は処刑された。  事件からしばらく経ち、侍女が埋葬された墓地を訪れる男があった。――修道士の身なりをした青年だった。  青年はすべてを知っていた。 青年には修道院で親友だった男がいた。純朴だったその男は王妃の暇つぶしの遊び道具となり、呼び出されるごとに破廉恥極まりない破戒的行為に付き合わされた挙句、自死した。  親友を失った青年は王妃の殺害を心に誓った。しかし、王妃は用心深いせいか悪運も強く、容易に近づくことはかなわなった。策をめぐらす中で青年は、親友の幼馴染だった王妃の侍女の存在を知った。親友が修道士の道を選び、二人はその後もそれぞれに思いを秘めて暮らしていたのだ。  青年が王妃への復讐を持ち掛けても臆病な彼女は頑なにそれを拒否した。時間をかけて説得を重ね、憎しみを煽り、王妃に毒を盛ることを実行させた。――この青年は、敬虔だった親友とまるで正反対の性格や主張を持つ男だった。  「万が一捕らえられた際は、王妃の殺害はすべて俺に脅されて実行したと言うんだ」 そのように、青年は彼女に言い聞かせていた。しかし、聞くところによると彼女は、自らが実行したと申し出て処刑されたということだった。  これが本当であれば、意味するところは一つしかなかった。  「お前はつくづく女運がないな」  今、幼馴染だった二人の墓は同じ村のこの墓地内にあった。青年の表情は険しかった。  「なあ、東洋では、人間というのは死してまた次の世で生まれ変わるという思想があるらしい。その時、性別はどうなるんだろうな」  俺は何度生まれ変わっても男でありたい。もしこの世に神がいるのならば、それだけを願う。  ――俺はお前を裏切ったりはしない。その証に、お前の味わった苦しみを女たちに思い知らせてやる。  もとから訪れる者も少ない墓地から人影が消えた。
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