6人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
リストラなんて、今時珍しくは無い。
男は家族を養う為に懸命に、真面目に働いてきた。まだ働ける年だったが、世知辛い世の中だった。
自分は、いてもいなくても変わらない存在だった。
家庭でもそうだ。
妻は休みなく働き、子供は当然学校へ。
次の職も見つけられず家にいる男に声を掛けてくれる家族はいなかった。
不甲斐なさに涙が出る毎日に、パチンコ通いを始めた男は直ぐに手持ちが無くなった。
妻のヘソクリの隠し場所を知っていた。
俺は、家族の為に一生懸命働いたんだぞ。何も悪い事をしていないのに退職せざる得なくなった夫に、何も言ってくれない妻の金だ。少しぐらいいいだろう。
自らを無理矢理正当化し、押し入れの奥からヘソクリの封筒を見つけ出した。
かなりの厚さだ。俺に内緒でこんなに貯め込みやがって。
男が憎々しげに封筒を開けると分厚い札束に手紙が添えてあった。
『あなた、お疲れ様。今はゆっくり休んであなたの好きな事をしてください。休んだら、また頑張りましょう』
思い出した。
妻は不器用な女だった。素直に感情を表現出来る女では無かった。
手紙が涙で滲んで読めなくなった。
枯れる程泣いた男は、封筒を元に戻し、ハローワークへと出掛けた。
封筒には『旅行に行こう』と一言添えて。
最初のコメントを投稿しよう!