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晴れているのに地面と枝先の雪が舞う地吹雪の青空を見上げ、カナはやっと涙を流していた。
「花南。ひとりの辛さがわかったか」
親方は離婚をしている。大きな子供もいるらしい。ガラスは、いや工芸や芸術に身を投じる者が定職にしたり収入を得るのは難しい。ガラスに没頭する親方を見ていると、この不器用そうなお父さんが家族に厭きられてしまったのも目に見える。
奥さんは既に、他の男性と結婚をして、小さかったお子さんは、その男性が父親として育てたとも聞かされていた。
そんな不器用な親方だからこそかもしれない。花南の『いまなら戻れるかもしれない可能性』を諦めるなと暗に示して戻そうとしているのは、ひとりが弱い生き方だと知っているからかもしれない。
そう。カナも結局進んでいない。過去を断ち切る。家とのしがらみを捨てる。これで進める、新しく生き直すと思っていたのに、なんにも変わっていない。
「それよりお母さんと甥っ子だが、おまえのアパートでは狭いし底冷えがするだろう。かといってあの様子だと何日も知らぬ土地で宿泊は気疲れするに決まっている。親父さんとの夫婦喧嘩のようだが、うちに泊まってもらえ」
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