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この世界にはケモミミとケモしっぽの獣人しかいない。
人々(獣人たち)の美醜の判断は耳としっぽであった。
いかに能力が髙かろうが身分が高かろうが最終的なその人の価値には関係ないのだ。
ピンと立つ耳と長くふさふさで艶やかな毛並みのしっぽ、それが全てなのだ。
「いつ見ても素敵お姿!」
「あぁ見ろよ。柊様のあの優美なしっぽ」
「本当に。我が国の秘宝。神様の愛し子であらされる」
「隣国の第一皇子倭様へのお輿入れの話も出ているとか。これでこの国も安泰ね」
「本当になー」
「倭様の御姿も優美であらされるとか、お幸せなことですわ」
興奮気味に柊を遠くに見つめながら言い合う人々。
ピンと立った大きな耳とふかふかの大きく艶やかなしっぽ。
柊はこの国の第二皇子で、秘宝で、神の愛し子で、美の頂点であった。
みな勝手なことばかり言う、隣国なぞに私の幸せなどないというのに。
自室に入りふたりきりになると、こっそりとため息をついた。
「柊さま、お疲れでございますか?」
それを目ざとくみつけた雪は心配そうに言いながら上質のふわふわのクッションをいくつも積み上げそれを背にして座るように促した。
「大丈夫だよ」
雪に心配をかけないように笑顔を見せる柊。
優しい目で柊は雪を見つめる。
雪は自分に向けられる柊の視線の意味に気づかないフリをした。
柊の想いに応える事などできないと知っていたから。
そして雪は俯いたまま柊のしっぽの手入れを始めた。
いい香りのする香油を垂らし目の細かい櫛で丁寧にといていく。
このふたりは想いあっていた。
しかし、雪は柊に対する想いを決して口にはするまいと誓っていた。
この国の皇子である柊とその従僕である雪では超えられない身分の差もある。
それにこの世界の頂点と底辺のような容姿のふたりが結ばれることなどあってはならなかったのだ。
だらりと垂れた長い耳と丸いしっぽ。この世界では醜いとされる雪。
雪は従僕として柊のそばを離れずお世話をすることがこの上ない喜びであり、それ以上のものは望んでいなかった。
そんな雪を見る周りの目はひどく冷たく、雪に投げつけられる言葉は冷たく痛いものだった。
『醜い、あんなに醜い者が美しい柊様のそばにいることはおかしい。いっそ殺してしまおうか』
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