1、

1/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

1、

何か、夢を見ていた気がする。 未だまどろむ状態から、なんとか起き上がり着替えをし始め、下へと降りる。 「さくちゃん。お早う。」 そう言って、私、春日﨑 咲乃(カスガサキ サクノ)を呼ぶのは、私の母親らしい春日﨑 雅(カスガサキ ミヤビ)さんだ。 「雅さん、お早うございます。」 真新しい制服を身につけた私に雅さんは、嬉しそうな寂しそうなともとれる表情を浮かべた後、私の背に腕を回した。 「さくちゃん、寮通いじゃなく、家通いにしてよー。寂しいよ。」 私は、雅さんの背をトントン叩きながら、「又、連休になったら戻ります。」と返していると、近くの扉が開き、苦笑した義父の春日崎 棗(カスガサキ ナツメ)さんが出てきた。 「また、咲乃さん。止めてるんですか?」 棗さんは、私の頭を優しく撫で、雅さんの腕を引き落ち着かせる。 「棗さん、ありがとうございます。」 私のその声にほほえみを浮かべ、また雅さんに向き直る。 「だって、まださくちゃん、目覚めて半年じゃない。」 泣きそうな雅さんの叫びに棗さんが嗜めながら、私の苦笑した顔を見つめ、「君の家は、ここだから何時でも戻ってきなさい。私は、咲乃さんを応援してるから。」と言ってくれた。 雅さんが言うのも、私が半年前、事故で記憶喪失になったことだ。その際、中三だった私は、志望校にも受かっており、病院で過ごした後、学校に少し通ったが、そこも卒業。今日から記憶なくす前に私が志望していた常葉華(トキワカ)学院高等学校の入学式だ。そこでは、家からの通学か寮からを選べたが、私は、雅さんと棗さんがまだ2年ほどの新婚さんだと聞き、去年、事故で大分お世話になった気まずさもあり、寮を選んだ。 最初、二人して心配していたが、棗さんは、何となく察していたのか、申し訳なさそうにしつつも応援してくれた。 棗さん、まだ34歳なのに落ち着いてて、察しが良く、連れ子の私にも優しく社長業もしてて凄い。 「雅さんを今後とも宜しくお願いします。」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!