サムシングブルー

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結婚式場の控室で、隣に座る彼はため息混じりに言葉を発した。 「はぁ~、どうしよ。すっげー緊張してきた」 「ちょっと、落ち着いてよ」 「そんな事言ったって、一生に一度の事だぜー。嫌でもプレッシャーかかるよ」 あまりにも情けない表情に、私は思わず吹き出す。 彼と初めて会ったのは、私が6歳の時。 あれから20年近く経つけれど、いつまで経っても子供みたいな人なのよね。 その時、部屋にノックの音が響いた。 私達の様子を見に来た伯母さんは、尋常じゃなく顔を強張らせている彼に気付き、苦笑しつつ発破をかける。 「しっかりしなさいお父さん!あなたがバージンロードですっ転んだりしたら、娘が恥をかくんですからねっ」 「は、はい!」 しかし彼はさらに固くなってしまい、逆効果と判断したらしい伯母さんは諦めて私へと視線を移した。 「あんたはしっかりしてるわね、幸」 「まぁね」 「さすが、雪の娘…」 ママの名前を口にした途端、伯母さんは瞳を潤ませた。 大学2年の春、彼はバイト先のファミレスで、8歳上のシングルマザーのママと出逢い、恋に落ちた。 最初は大反対だった双方の家族は、2人の真剣さに徐々に理解を示し、彼の就職が決まったタイミングで結婚を許した。 けれどその後、ママは交通事故に遭い、この世を去ってしまったのだった。 それから今日まで、彼と2人で生きてきた。 とても幸せな日々だった。 そうこうするうちに時間となり、私と彼は担当者に案内され、教会の扉の前まで来た。 「『将来はパパのお嫁さんになる』なんて言ってたのにな…」 彼はポツリと呟く。 「俺の可愛い恋人は、よその男に取られる運命だった、と」 「なにそれ」 私は思わず苦笑する。 「でもまぁ、新郎は小学校からの幼なじみだもんな。初恋の相手と結ばれるなんてドラマティックじゃないか」 「…違う」 「え?」 「私の初恋は、保育園の時だもん」 「え?そうなのか?」 彼は大袈裟に驚いた。 「て事は5、6歳?ませてたんだな~、幸は」 その無邪気な笑顔に、この上ない切なさが込み上げて来た。 サムシングブルー。 ドレスで隠れる位置に、何か青い物を身に付けて愛を誓えば、その花嫁は幸せになれるという。 だから私はこのブルーな気持ちを胸に秘めて、神様にお願いしよう。 彼のことは諦めますから… せめて二番目に好きな人と、幸せな人生を送れますように。
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