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たとえば夢は卵焼き
「ついに葉山がおかしくなった」
どよめきが広がる食堂で誰ともなくつぶやかれた言葉。食堂とは名ばかりで、会議室に机が並べられただけのさしても広くない部屋だ。食堂の隅の席に座る葉山本人にも聞こえたはずだ。が、葉山はまるで気にすることなく手を合わせると、食事を始めた。
「どうした。なにを騒いでる」
食堂のただならぬ雰囲気に食堂に入るなりそう声をかけたのは、この食堂を使用する新人たちの指導係である松浦だ。
決して逆らえぬ松浦の登場に誰もが口をつぐむ中、唯一動じなかったのは池田だった。
「原因は窓際に座っている葉山です」
「葉山?」
品行方正で成績優秀、池田と並び新人研修をトップで終えた葉山が問題を起こすとは到底思えない。
信じられないと声を上げる松浦に、池田は続ける。
「別になにかトラブルを起こしたわけじゃありません。ただ…………」
「ただ?」
「葉山の手元を見てください」
「手元?」
言われたとおり葉山の手元を見れば、見慣れぬ半透明の容器が置かれていた。
「あれは…………タッパー?」
食品の保存などに用いられるあれだ。ここへ来てからはとんと使う機会のなくなったそれを葉山はどうしたというのか。
「はい、タッパーです」
いや、それは見ればわかる。問題は葉山がなぜそれを食堂に持ってきているのかということだ。
そう松浦が尋ねる前に、池田はあきれた様子で答えた。
「あいつ、弁当を作ってきたんですよ」
「弁当って…………はぁ!?」
池田から告げられた予想もしていなかった言葉に、松浦は思わず間の抜けた声を上げてしまった。
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