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刀を持って、柊平は庭に出る。
『至極』
鞘から抜いた撫で斬りの刀身が、闇のように深い赤紫色に染まっていく。
『起きろ』
その黒と見間違うほど深い赤紫色は、切っ先から、絵の具を水に溶くように宙に滲み出し、やがて池のほとりに像を結んだ。
銀色の長い髪と藤色の狩衣。
過去へと自分を放り込んだ、元神様。
「思い出したか?」
至極の金色の目が、不機嫌そうに柊平を見る。
「無茶言うな。俺は桃晴じゃない」
足元で眠ってしまった夜魅を抱き上げ、柊平は呆れたようにため息をつく。
「面差しがよく似ていた。また会えたのかと思ったのだがな」
離れの縁側にいる鏡子が、なんとも言えない顔をしている。
だから、父ではなく、1代飛ばして自分だったのかと、柊平は妙に納得する。
妖怪達と人間の時間の流れは、ずいぶんと違う。
それでも、人と心を通わせてしまった妖怪達は、たまにこうして人より人らしい感情を見せる。
いつかの友に会いたいと、会えないことが寂しいと。
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