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【 従者と少女 】
ピチチチッ……。
雲ひとつない青空を映す窓の向こう。
小鳥たちが澄んだ声を響かせ、仲間たちと囀り合う。
それを耳にしながら、皴ひとつない従者の服を身につけた青年、ヴィンスは主人の部屋へと向かっていた。
陽の光の射し込む明るい廊下。
手に持った銀盆の上には朝摘みの花弁が揺蕩う紅茶に、木苺のスコーン。
作りたてのそれが熱を失う前に。自然と早まる足は広い屋敷の奥、主人の部屋の前で止まる。
「……お嬢さま、おはようございます。朝食をお持ちしました。……、入ってよろしいですか」
流れるように口にする、毎朝決まりの言葉。
それに返事が返ってきた試しは従者になって以来ないので、無言の扉に手をかける。
「お嬢、……ミアさま」
掛けかけた言葉を切り、一考して主人の名を口にする。
昨日「起こす時くらい“お嬢さま”はなしにして」と願われたが、従者の身ではやはり、主人を名前で呼ぶことには躊躇があり。
常より小さなその声は彼女の耳に届いたか、届かなかったか。
それは彼女にしかわからないが、ヴィンスは主人を起こすためベッドへ足を向けた。
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