クズ、豚に欲情する ( クズ彼氏編 )

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クズ、豚に欲情する ( クズ彼氏編 )

えーちゃんが居なくなって一か月。 一人で住むには広い部屋、真新し過ぎてえーちゃんとの思い出も痕跡も何もない部屋は、寂しくて寂しくて毎日泣いている。 失って気付くえーちゃんの存在の大きさは、日に日に増すばかりで辛い。でもえーちゃんはもっと辛かったはずだ。俺と過ごした七年間は裏切りと嘘しかなかった。愛は胸の中にずっとあったのに。今更悔やんでも過去は戻らない。傷付けまくっていた事実が消えないように。 大手術を終えて帰って来た豚は、俺の癒し。 この豚だけが俺とえーちゃんを繋ぐ物だから、大事に大切にしなければならない。 たとえ、空いた穴を塞ぐ為に片方の目が異常にデカくなっていて、豚にあるまじき長い尻尾や厚さの違う耳という、なんだか分からない奇怪な動物になっていようとも。 その改良だってえーちゃんがしたと思えば愛おしさが込み上げる。えーちゃんが触れた豚もどきの匂いを嗅いで、えーちゃんを感じながら一人で抜く為のおかずになっていた。 増えた豚は、そんな邪な想いを抱いて触れて抜くことはしない。えーちゃんの気持ちが詰まったリボンの豚を、俺の欲で汚してしまったら幸せな未来がやって来ないような気がして。 だからリボンの豚は神聖な物として、神棚に飾って毎朝欠かさず拝んでいる。神頼みならぬ豚頼みだ。 三か月を過ぎた頃、俺はいよいよ我慢の限界を迎えていた。生でシたのに子供もデキてなくて悲しかったし、昼休憩の一時間弱を覗き見るだけでは収まらない衝動。 こっそり後をつけ、どこにも寄り道せず実家に帰宅する様子にホッとして、でも足りない、えーちゃんが全然足りないと焦燥が募る。 欠乏による禁断症状まで出始めた。 えーちゃんの周囲の男が全員、敵に見えた。 俺からえーちゃんを奪う気満々に思えた。 俺が話せないのに話せる男は全員消えて欲しい。 三秒以上えーちゃんの目に留まった男や、かつて抱かれたいと言ったえーちゃん好みの肉体をした男は、皆不能になれと呪った。 すれ違い様にえーちゃんを見た ( かもしれない ) 男は写メして記録に残し、要注意人物に認定。同じことが三度続けば、神棚に飾った豚に罰を当てて欲しいと願かけた。 そうして、苦悩と苦悶と嫉妬で昂る己を豚片手に慰める。本物のえーちゃんを抱きたい抱きたい抱きたいと、欲の収まらぬ我儘な分身を叱りつけながら。 俺も我慢してるんだからお前も耐えろ!! 解禁日まであと数日。 当然、浮気も約束破りもしていない。 拷問のような日々がもうすぐ終わると、指折り数えながらその時を待っていたのに。 過去のツケが俺の前に現れた。 よりにもよって、えーちゃんの昼休憩中に。 唯一の楽しみであるえーちゃんをストーカーしている最中に。 そしてそれは、えーちゃんにとって俺の最初の浮気にあたる女だった。無視する俺の許可なく勝手に隣に座って勝手に喋り出す。  こんな所をえーちゃんに見られて疑われたらたまらない。お前には何の興味もない。大学の後輩だったから覚えていたけれど、記憶から存在ごと消去したって構わないぐらいどうでもいい女だ。 触れらそうになってゾッとした。 この七ヶ月えーちゃんにも触れられてないのに! 「やめろ! ずっと豚で抜いてる俺の努力を無駄にする気か!」 叫んだ瞬間、周囲から好奇の視線が突き刺さる。 女は、そそくさと逃げていた。 ハッとしてえーちゃんを見れば疑惑は解消出来たかもしれないが、その口が言っていた。 とうとう豚にまで……と。 えっ、どういう意味?
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