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これは愛か依存か執着か
空は朝から曇天。
今にも雨が降りそうな重苦しい空気の今日。
ようやく期限の七か月を無事迎えることが出来た。
クズはこの期間、浮気をせず誠実な真人間に生まれ変わったようだが、以前の浮気相手が逃げ出すほどの新たな性癖を身につけていた。
良いのか悪いのか、クズからど変態に進化した奴は、大号泣しながら豚を携えて私に飛びついてくる。
やはり、事実なんだ。
持ち歩いていることにドン引きしたけども、それもこれも別れを選んだ弊害であり、責任は私にあるので受け入れるしかない。
しかし、こんなど変態でも約束を守り通した誠意、ストーカーになりながらもちゃんと就職していたことに、少なからず感動した。
私の為に。
頑張ってくれた。
一日も欠かさず様子を見に来てくれた。
あんなに可愛い浮気相手にも靡かなかった。
会社への電話は続いたけれど、切る前には「明日も宜しくお願いします」と、礼儀正しく ( 笑 ) 挨拶をしていたようで、鬱陶しがられていた当初と違って、最終的に何だこの面白い奴はと、誰が電話に出るかの争奪戦になっていた。
同僚からは、あんたらお似合いだよ、と言われながら花束を貰った。
今日、会社を辞める。
そして今日、クズと籍を入れる。
そしてそしてなんと、三ヶ月後に私達は父と母になることが決定している。
気付いたのは一ヶ月ほど前。
体調がおかしいと思っていたけれど、別れたことで精神的な不調が身体に現れているだけだと思っていたら、違った。
ビックリである。
クズは俺の愛が勝ったんだ! やっぱり俺とえーちゃんは運命なんだ! と大喜びしていたけれど、クズの執念の結果だろうと密かに思っている。
両親には心配をかけた。
顔合わせの後で実家に帰って来た私を何も言わず迎えてくれたけど、将来について話さない私にヤキモキしたことだろう。
と思っていたのに、それも違った。
クズはクズの両親、私の両親の前で真実を語っていたのだ。私の知らないところで。
一時的な別れや、そうなった経緯を全て隠さずに。
クズはまず、私の父に殴られたらしい。
次に私の母に猛烈な勢いで怒鳴られ、自分の親にはその両方は勿論のこと、七ヶ月後に私がよりを戻さなかった場合、頭を丸めて出家する約束をさせられたそうだ。
全部を知っていて、私とクズが結婚することを許してくれた両親は偉大だと思う。
私の気持ちを尊重しつつ、釘を刺すのも忘れなかったけど。
次にクズが私を裏切ったらクズのアレは父によって潰されるらしい。出家以上の厳しいことを言われたのに、クズは快く了承していた。
豚があるもんね。
とは、思ったけど言わなかった。
「えーちゃんえーちゃんえーちゃんえーちゃん!」
二度目の新居訪問。
今日からここが私の帰る場所になる。
中に入った途端、クズが思い切り抱き着いてきた。
「あ、ごめんね。赤ちゃんいるのに」
「大丈夫。お腹は避けてくれたし」
「俺、大事にするよ。えーちゃんも子供も。今までが散々だったから、この先は俺に一生尽くさせて下さい。もう間違えないし間違わない。仕事も家事も家族を愛することも、この身とこの魂にかけて誓います」
「あれ、豚には誓わないの?」
「あは、覚えてた? もちろん豚にも誓うよ」
私も大概かもしれない。
元クズで性癖を拗らせたど変態になったとしても、やっぱり貴方がいいと思ってしまう。
七年間の過去の憤り、諦めは、忘れていない。
忘れていないけど離れた七ヶ月の間に、思い出にすることは出来ている。
そしてこの痛い思い出は、もっと薄れていくのだろう。私と子供と夫が作り出す新たな思い出に塗り替えられて。
( 完 )
最後までクズの名前がなくてすみません。
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