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決別
会社経営に着手しはじめてから数ヶ月後のこと。煮詰まった頭を冷ますためにテラスに出た時。
一通のLINEが来ていたことに気づき、開くと蒼井からだった。
『お久しぶりです、蒼井です。今週末にうちの大学の学園祭があるんですけど、よければ来ていただけませんか? そこでゆっくりお話ができれば嬉しいです』
いまだに蒼井からのLINEは胸が高鳴る。未練たらしい女々しさに嫌気がさすが、心に嘘はつけなかった。
今週末といえば予定はちょうど空いている。蒼井に会いたいのは山々だったが、癒えつつある傷口を再び抉る心地がし躊躇われた。
だがこの厳しい状況が続く中で、ふと蒼井に会いたいという気持ちが強くなる。
一目でいい。
蒼井はああ言ってくれたが、積もる話をゆっくりする気はない。
美しい思い出を少し思い出しに行くだけだ。
『わかった、その日空けとくよ。楽しみにしてるな!』
都合の良い先輩だと思ってくれて良いから。
気がつくとスマホのカレンダーに赤字で予定を入力する俺がいた。
この時の俺はただ楽しみでしかなかった。
だから、まさかあんな気持ちを味わうことになるとは思ってもなかったのだ。
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