10.僕が君の指になる -真人-

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そういって紡がれた言葉。 それはボクが考えていたものと全くの別のものだった。 胸のつかえが溶けた瞬間。 僕は、瞳矢の指になるべく、オーケストラの譜面から、瞳矢が抜き出した音を拾い集めて、 それを超絶に聴こえる感じに、音と指使いを抜き出して、鍵盤に乗せていく。 「左手のピアニスト。 今のボクの夢は、左手のピアニストだ」 瞳矢の自身に満ちた曇りのない音色は、 この先の未来への希望すら感じらせる音色だった。 「瞳矢君、素敵な演奏を聞かせてくれて有難う。 今度、多久馬の病院で、瞳矢君がミニコンサートを開くなんてどうだろう。 昔は、真人の母親が演奏して、時折、冴香さんが演奏して……今度は真人が演奏してくれる。 そこに瞳矢君も一緒に出てみないか? 無論、出演料も支払う」 突然言い出した父の提案に、僕たちは驚くばかりだったが、 瞳矢のおばさんは嬉しそうに「有難うございます。院長先生」と微笑んだ。 その日、父は和羽姉さんが作ってくれたご飯を一緒に食べて、 僕と瞳矢が奏でるピアノを楽しんで、檜野家を後にした。 瞳矢に僕が出来ること。 ずっと迷走していた答えが少し見つけられた気がして、 僕は僕自身の音色も探し続けたいとそう思った。
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