猫と僕と

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 この家は飼い猫の身である僕にとっては、とても大きいものだ。入れない部屋もあるけど、リビング一つで探しても窓際、テレビの脇、ソファの上など、身の置き場所はどこにでも見つかる。  今はソファの気分と決めて、フローリングの床を肉球で叩いて行くと先客が居た。  父親がリビングのソファに深く腰掛けて新聞を広げている。対面にある大きなテレビ画面ではワイドショーが流れているが、父親は聞き流している様子だった。  土曜、日曜、一定の周期で在宅する家主に、僕はあまり好かれていないように思う。  ソファもたいそう汚して、壊して、新調する羽目にもなったから仕方のないことか。思わず爪を研いでしまったり、糞尿をたれてしまったり。今は爪とぎをしていい場所も覚えた。その間にかなり家に傷を作ってしまったけれど、その都度、週末になると父親が影で修繕をしている姿があった。  結構な迷惑をかけてきたが、それでも積極的に追い出そうとしないのだから、父親にも飼い猫をこの家に置いておく理由は何かあるのだと思う。  ソファを諦めて、窓際でもいいかと足の向ける先を変える。窓際に近づいて見えてくる空は曇天で、今にも雨が降り出しそうだった。陽が差さない窓際はあまり良い心地はしない。残念だ。  --なーん。  無念の声を上げると、後ろでソファが鳴るのを聞いた。振り返ると、父親がソファの端に寄って腰掛け直している。新聞は広げたまま。でも確かにソファには猫一匹丸くなるのに十分なスペースが空いている。  僕のためだろうか。今、母親は買い物に出ており、他に座る人は居ない。  警戒しながら、そろそろと足音を殺して近づいていく。遠回りをしてソファのスペース前に辿り着く。一度、父親を伺ってみたけど、紙面で隠されて表情は伺えなかった。  ひと鳴きしてソファに乗ることを告げてから、ひょいと体を伸ばしてソファへと上がる。ぼふぼふとした感触を足裏に感じながら、ソファの上に体を丸めた。  ぼんやりと、テレビに目を向けてみる。光が強いから、目を閉じた。 「……感謝する。少しだけ、救いがあった。どうすべきかも、少しだけわかった気がする」  ぽつり、と野太い声が届いた。続く言葉に耳を傾けたけれど、聞こえることはなかった。  片目を開いて、目端で伺ってもやはり紙が邪魔して父親の様子を伺うことは叶わなかった。
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