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微かに聞こえる彼らの声で、いつも僕の踊りを喜んでくれる人たちだと分かった。
涙が溢れた。
身体はもう動かないというのに、涙だけはこんなにも溢れるものなのかと、不思議だった。
沈みゆく身体。もう声も出せない。
嗚呼、ごめんなさい。
僕はもう、踊れないのです。
もう、僕の踊りであなたたちを喜ばせてあげられないのです。
踊れないことより、何より、その事実が辛かった自分に気づいて、僕はおかしくなって、笑ってしまった。
なんだ、僕は踊りが好きなんじゃなくて、踊りで喜ばせることが好きなのか、と。
僕の頬を濡らした涙は、水に溶けて、きっと誰にも気づかれないだろう。ここが水の中で本当によかったと心から思う。
喜びを与える僕が泣いている姿なんて、見せたくないから。
声が、近くに聞こえる。
僕の最期を知って、近くに来てくれたのかもしれない。
透明の壁の向こうに数人の姿がうっすら見えた。
『ああ死んでしまったか』
『よく動くから、強い個体かと思ったけれど』
『一度も闘わないとは、怖気づいたのかねえ。情けない。闘魚のくせに』
透明の壁の向こうにいる僕を見ている人たちは、何を言っているのか分からない。今までだって、そうだった。
それでも、感情くらいは分かる。
今の声は、残念そうな、悲しそうな、憐れむような、そんな声だった。
涙が溢れる。
止まらない。止められない。
嗚呼、ごめんなさい。
僕はもう、踊れないのです。
嗚呼、ごめんなさい。
僕はもう。
嗚呼、ごめんなさい。
嗚呼。
僕の踊りは、要らなかったのですね。
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