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それは突然の出来事だった。
ある日、空から何かが降ってきた。
大きな音を立てて僕の目の前に落ちてきた、真っ黒い塊。
僕より一回りは大きいその黒い物体は蠢き、ゆっくりと広がった。
最初は何かと思ったが、どうやら僕と同じ生き物らしい。
僕と違う衣の形と色。綺麗だな、と思った。しかし、ところどころ傷がついていた。痛そうだな、と無意識に顔が歪む。
それよりも、彼はどうしてここへ来たのだろう。
「君は、誰?」
踊りを中断して、問いかける。
彼は不思議そうな顔をして、衣を大きく広げる。
「そんなこと、どうでもいい。早くやろう」
低い声。
そう言って、じりじりと近づいてくる彼に漠然とした恐怖を覚える。
僕は慌てて距離をとり、もう一度問いかけた。
「な、何をやるの」
それにも、答えてくれなかった。いや、この彼の行動が答えだったのかもしれない。
彼は僕の腕に噛みついた。鋭い歯が、皮膚に食い込む。血が滲んだ。
痛みと混乱で、僕は暴れた。体を動かし、どうにか彼から逃れた。僕の後を赤い帯のような血がついてくる。彼は舌打ちをすると再び僕に近づこうと態勢を立て直した。
「どうして?僕はそんなことしたくない。僕は、踊っていたいだけなのに」
睨み付ける黒い彼は、僕を殺そうとしている。そう確信して、叫ぶ。
「こんなこと、やめようよ。仲良くしようよ」
彼はくだらない、と言いたげに笑った。
大きな体は動きも速く、次の瞬間には目の前に彼がいた。
真っ黒の衣に、真っ黒な目がぬめりと光って、僕を映している。
「そう言って俺を殺すつもりだろう。その手には乗らない」
「違う!そんなことしないよ!」
大きく口が開いた。
僕の左肩に噛みつく。大きな体に押さえつけられ、身動きがとれない。
「痛いよ、やめてよ」
必死に叫ぶ。こんなに大きな声で言っているのに、彼の耳には届かないのか、何も言わずに何度も、何度も歯を立てた。反対側の肩も、足も、あちこちに噛みついた。
自慢の青が散っていく。細かくなって、舞っていく。
身に纏っている衣は赤が混ざり、紫色になっていた。僕の好きな色はもうどこにもなかった。目の前がぼやけてくる。
昨日まで平和だったのに。
昨日まで楽しかったのに。
一瞬で壊れていく世界。
何故こうなったのか、分からない。
僕の体の動きが鈍くなったことを知ると、もう興味をなくしたように黒い影は離れていった。まるで、死神のようだと僕は思った。僕の命を奪うために訪れたのかもしれない、と。
ぼんやりとした意識の中、体がゆっくりと沈む。
ふと、周りに誰かの気配を感じた。
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