3_side.S

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3_side.S

ううむ…。 合コン。合コンかぁ…。 「やっぱり俺が行ったら迷惑かなぁ」 「迷惑というより、気遣うかもね?澤くんああいう場所苦手でしょ?」 「へっ、うわ藤倉!」 思っていることが声に出てしまっていたのか、帰り支度をしながら考え込んでいると背後から聞き慣れた声が響いた。 振り向くとやっぱり。 見慣れた柔い微笑みがある。 しかしどうしたのだろう。 細められた眼差しはいつもの様に穏やかに見えるのに、その奥で何か妖しい光が見える、気がする。 苛立っているのだろうか。 それともただ単に、光の加減とかでそう見えただけだろうか。 「というか、登場が唐突過ぎる…」 「早く会いたくてねぇ」 「毎日会ってんじゃん」 「行くの?」 「え」 「苦手なら無理しないでいいと思うよ。あいつらもそういうこと分かってて駄目って言ったんだと思う」 バレてたのかぁ…。 そうなんだよな。 大勢集まってわいわいやるのは別に嫌いじゃないんだけど、そこに恋愛の要素が絡まってくるとなると話は別だ。 思春期ならば「普通」なのかも知れないが、俺はどうにもそういう話題に疎い。 疎い上に、そういう話しかできないような雰囲気の場が実はちょっと苦手なのである。 自分が話題についていけないから、というよりかは、そういう雰囲気そのものが多分苦手なのだ。何というか、どうしても色々と考えてしまうから。 男とか女とかそういうのはあまり関係無い。ただ恋愛に関心があるのがあまりにも当たり前だという空気が、苦手の一因なのだと思う。それもただの集まりでなくて恋人を求めるのが目的の集まりならば尚更。 でも何で、藤倉がそんなことを知っているんだろう。気付かれてたのかな。 いつから? こいつは誰より聡いから、何でも見抜かれてそうだなぁ。 いやいや待てよ。それ以前に。 「え、あれちょっと待って?お前あの会話聞いてた?」 「ん?」 「ん?じゃなくて!」 「あー、ゴメン実はね。通りすがりに」 「そっかぁ」 言うなって言われてたのにまさか聞かれていたとは…。だけど通りかかったにしても、こいつ本当地獄耳だな。 まるであの会話を全て聞かれていたみたいだ。ただ廊下を通りかかったにしても、余程近づかなければ全部聞こえる訳ないのに。盗聴でもしてるみたいだ。そんなわけないだろうけど…。変なの。 …盗聴。してないよな? 「やっぱり気になる?」 「へっ、何が?」 俺の疑問をぶつける前に、藤倉の方から質問を投げられてしまった。 そのせいで俺の思考は別の議題へと勝手にシフトしてしまって、こいつの地獄耳のことは深く考える間もなかった。 「あいつらのこと。困ってるんじゃないかなーとか心配してるでしょう」 「や、まぁ、それは…。ちょびっとだけな」 「…お人好し。遊びなんだし、放っとけばいいのに」 「そりゃ…そうなんだけど」 「もしかして、行きたいの?」 「へっ?」 「合コン。澤くんも行きたいのかなって。そんなにあいつらのことが心配?」 「えっ。いや、そんなことは…」 ないよ。と、言い切れない…。 もごもごと口を動かすが、上手い言葉が出てこない。別にそこまで気にしてるつもりはないんだけど、何だろう。 あいつらのことを気にしてるっていうよりかは、もっと利己的な理由で頭の中がぐるぐるしていた。 前々から感じていたことではあるが、俺ってやっぱり世間一般の同い年の奴らとはどこかズレているんじゃないだろうか。 苦手だけど、合コンってやつに参加すればそういう自分のこともちょっとは分かるんじゃないだろうか…なんて。馬鹿な考えなのは分かってるんだけど。 そういう意味で興味があるといえばあるんだけど、そんな動機は不純だろうか。 単純に人数が足りなくて困ってるであろうあいつらも気になるけど、俺が行っても邪魔になるだけかもしんないし…。 あぁダメだ、訳分かんなくなってきちゃったな。 そんな煮え切らない俺の態度を藤倉は一体どう受け取ったのだろう。 桜色の唇が放った次の一言に、俺は暫く言葉を失うことになった。 「俺が行こうか」と。
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