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喜志に甘えるように腕を組み、私たちに謎の上目遣いをする逢沢さん。
「新葉と昂大くんは、明洞でデートしてきまーす。」
「……訊いてないっちゅーねん。早よ行けや。」
「はーい。楽しんできまーす。」
絢音さんの優しさの欠片もない言葉に、臆することなく笑顔で応える逢沢さん。
鋼のメンタルの持ち主なのか、ただ鈍感なのか……。
逢沢さんが先導を切って、二人はリムジンバスの乗り場へと向かう、が。
数歩進んだところで、喜志は彼女をそこに留めたまま、こちらへと戻ってくる。
「衣咲っ……」
私の所へ駆け寄ってくる。
突然の出来事に、驚きが隠せなかった。
「何……?」
絞り出した声が、微かに震えているのが証拠だ。
気づかれないように、息を呑む。
「また、あとで……連絡するから。」
「別にいいよ。逢沢さんとのデートで忙しいでしょ?」
「絶対にするから。」
「……わかった。無理、しないでね。」
あまりに真剣な表情で、真っ直ぐに言葉を向けてくるから、私も素直に受け入れた。
連絡してくる意図は分からないけれど、私のことを少しは気にしてくれているのなら、嬉しいな……。
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