母の教え

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母の教え

「嫌いな奴を殺して自分の人生を駄目にするなんて馬鹿みたい」それは母が僕に言った中で、唯一胸に置いている言葉だ。要は“嫌いな奴なんかの為に自分の全てを犠牲にするな”ってことだ。そんな時間も気持ちも無駄だって。乱暴な言い方だが、まだ若くて、なにかと暴走しがちな僕には、それくらいでないと届かなかっただろう。今は、本当にそうだと思っている。 けれど、少し遅かった。僕はもう、そいつに馬乗りになってナイフを突き立ててしまった。母はそれを咎めているのだ。 「なんでこんなことに……」苦痛に満ちた、悲しげな顔で母は言った。 「こんなことなら、殺しておけばよかった」そして母は動かなくなった。僕の下で、腹から血を流して。 「なんだ、母さんも僕が嫌いだったんだ」だから僕を殺さなかったのだろうか。どうしてだろう、涙が止まらないんだ。
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