赤子らしさ

3/3
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「周りに何と言われても、私の子供なのです……! ヒュースに何かあったら、私は……」 「うるさい! これ以上近づいたら、この赤ん坊を殺すぞ!」 「返して! 私の子供を!」 その言葉が合図になったかのように、母親はナイフを持つ手にしがみつく。 止めてくれ、と内心で叫ぶが、ヒュースに出来る事は何もなかった。 「邪魔だ。退け!!」 そうして、母親が突き飛ばされて、床に倒れた時。 ヒュースは大声を上げて、泣いたのだった。 大声を上げて泣いていると、廊下が騒がしくなった。 「早く、奥様と坊ちゃんが!」 「旦那様に連絡を! それから、騎士団にも!」 ようやく使用人たちが気づいたのか、執事を始めとする使用人が部屋に集まって来る。 「チッ!」 男は乱暴にヒュースをベッドに放り投げると、窓から出て行く。 外から「いたぞ!」や「あっちだ!」という声が聞こえてくる様子から、どうやら外にも使用人がいたらしい。 「ヒュース……ヒュース! 大丈夫?」 ずっと泣いているヒュースを抱き上げると、母親は顔を近づけてくる。 「怖がらせてごめんなさい。もう大丈夫よ」 顔に触れてくる母親の頬が温かい。 そんな母親を安心させるように、頬をぺちぺちと触れながらヒュースは泣き続けたのだった。 (身体中が痛い。早く医者を呼んでくれ) そう伝えたくても、上手く伝えられないヒュースは泣き続ける事しか出来なかった。 母親を安心させつつ、でも身体中が痛い事を訴えながら、ヒュースは泣き続けたのだった。 この日、ヒュースは始めて知ったのだった。 人は一度泣き出すと、なかなか止まらないという事を。 それは、赤子だけかもしれないし、ヒュースだけかもしれないが。 赤子らしくなれる方法を、ちょっとだけ知れたような気がしたのだった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!