死の足音

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    星などどんなに目を凝らしても見ることのできない、重く、遠い黒い空。 風に絡まる腐敗臭と、血の匂い。 冷たく街を閉ざす冬の気配が近く、秋の終わりの日。 硬く冷たい路地に、本来なら光を通せば透けてしまいそうな、柔らかな白銀の色が落ちていました。 雑巾と形容した方が良いほど、ボロボロにされた薄い布が一枚。 それから覗く細い足には、短く鎖が残る重そうな枷がひとつ。 一見、路地に投げ捨てられた塵のように見えるそれ(・・)ですが。 本当に、微かに。ヒュウ、ヒュウと、細い呼吸をしており、まだ生きていることがわかります。 しかし。 元より好き好んで路地を覗く者は居らず。 仮にいたとしても、それを助けようと思う者など居るはずもありません。 だって、今にも息絶えそうなそれは、人ではなかったのですから。 ボロボロの布に見え隠れするそれは、“獣人”。 人間と、獣。どちらの性質も持ち、そのどちらとも相入れない存在。 半端もので、醜くて、痛めつけられて、最期は塵のように打ち捨てられて終わるような存在。 好き好んで救おうとする“人”など、この街に居るはずもありませんでした。      
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