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4話 缶詰2日目 恋人代用品。
「今日は日曜日ですよね」
ノートパソコンから顔を上げた森山君がこっちを見た。
予定通り朝9時から執筆を開始して、二時間経った所だった。
森山君は紺色のTシャツに黒いチノパン姿で昨日よりもくたびれたオーラが漂ってる。
「日曜日ね」
自分のノートパソコンに視線を落とし、森山君にもらったばかりの原稿をチェックする。
三話目の半分まで来ていた。この後の流れはヒロインが仕事上の付き合いで、年下キャラと二人きりでクラッシックのピアノコンサートを観劇する事になる。
そのイベント中に、年下キャラの優しさや意外性に気づいていくという流れになっている。
森山君の書いた物はプロット通りに話は進んでいるが、何となく話が停滞している印象だった。
あまり気が乗ってなかったのかな。
「森山君さ、これだとプロット通り過ぎるっていうか、もうちょっと楽しい感じに書いてよ。二人が初めて手をつなぐシーン、もっとときめきが欲しいな」
「胸キュンシーンは春川さんが担当ですよ。だから春川さんが思うように直して下さい」
森山君が黒縁眼鏡のフレームを抑えながら、こっちを見た。
その表情は仏頂面というか、機嫌が悪そう。
どうしたんだろう。
「なんか、疲れてる?」
眼鏡越しの瞳が考えるようにじっとこっちを見た。
「日曜日ですよね」
さっきと同じ言葉が不満そうに響いた。
「そうだね」
「しかも今日は青空が綺麗ないい天気で」
「うん」
「こんな日にホテルの部屋で缶詰めになってるのって不健康だと思いませんか?」
「締め切りが近いから仕方ないよ。この仕事が終わったら、まとめて休みをくれるって夏目さん言ってたよ」
「俺は今、休みたいです」
「今?」
「今日は全然集中できないんです。気分転換をさせて下さい」
「あっ、ごめん。気づかなくて。もちろん、いいよ。休憩取って来なよ」
「じゃあ、春川さん付き合って下さい」
「どこに?」
眼鏡越しの黒い瞳がゆっくりと微笑んだ。
「公園を散歩しませんか?」
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