ツバサをください

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「意味わかんない」 「わかりにくかった? まぁ、俺は所詮医者じゃなくて、しがない作家だからね」  そこじゃないとか、余計なことを返すとさらに面倒そうだから黙っておく。  ある意味、僕なら近付いても良いような言い方をしたのには理由があるんだけど、わかるように言われてないし、気付く筈がない。 「医師の指示に従って治療したら、致死率は約二割。つまり、」  漸く筆を止め、掛け軸の虎にも似た鋭い目線を上げた。 「未来に帰れば、八割は完治」  ここに居続ける場合とでは、逆の数字だよね、とでも言うようだ。いや、僕が勝手に思っただけだ。 「帰したくない? なーんちゃって……って。ちょっとやめてよ、素直だね今日は」 「……なにも言ってないし」  サンナンさんみたいなこと言うんだから。二人して、僕がいつも本心を出さないみたいに。 「残念だけど……両方の意味でね」  前置きしてからヒラリと、懐紙を翻す。試されてる気がする、渡すかどうか。 「彼女は、いつ帰るかを選べない。でも、絶対に帰る。ここで死なない限り」  苦しい程の真実だけど、冗談みたいに付け加える。 「俺も同じだけど」  筆をコトリと置いて、両手を前で組んで伸びをすると、パキパキと乾いた音がした。 「あの時、ごめんね。急にいなくなって。先に謝っておくけど、また行くね」  ふわりと笑う顔は別れた時から何年分も大人びているけれど、でもやっぱり変わらない。どこか、寂しげなところが。
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