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生涯が詰まったアルバムを胸に抱えるように、驚くほど穏やかな顔で眠っている。最初で最後にそんな顔見せるなよ。その手に握られた鍵を受け取ると、部屋を出て扉を締めた。
カチャリと軽い音が廊下に響く。
重厚だったはずの扉が、あまりにも呆気なく生涯を閉じた。
階段を降り水に浸かった一階の廊下を玄関へ向かうと、振り返り一呼吸してから外にでた。鍵をかけ後退りしながら家を眺めていると、町役場の人がもう大丈夫ですかと声をかけてきた。はいと答え家に背を向けると、共に町を後にした。
間違った事だろう。許されない事だろう。
それでも。この町と一緒に眠りたいという願いを叶えてやりたいと思った。
その罪を一生背負ってでも。
温暖化だの何だのと、誰がどんな専門用語を並べ立てようと。
あの部屋もこの町も。
最終撤去日の今日から二十日後には海底に眠るのだから。
〈眠りつく部屋 完〉
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