後悔の向く先

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 日が沈み、近隣の家庭は夕食を済ませた頃だろうか。我が家の夕飯はまだだったが、空腹感は覚えなかった。 「大丈夫」  確かめるように呟いた。声は掠れてしまった。何が大丈夫だというのか。大丈夫とはどういう状況だろうか。  震える手でテーブルの上にあった携帯電話を取る。コールを数回待った後、繋がった。 「あの……」  伝えるべき言葉が出ない。通話口で、どうしました、と問う声が聞こえる。  --どうしました。  白色光に照らされるリビングを見る。フローリングに、夫が倒れていた。横を向いて、虚ろな目で窓を見ている。夫から広がる赤い液体から、鼻を突く鉄の臭いを強く感じた。 「……あの……私、夫を刺しました」  告げた後、すっと私の頬を涙が伝った。
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