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その想いが ちからをくれる
「ちょ、ちょっと待って」
「ん? 心の準備?」
「あの、えと……。うん、そんな感じってことで」
小さい頃から、私は視力は悪かった。
そのおかげで小学校に入るかどうかという頃から、眼鏡は私のパートナーだった。
不便だと思ったことは数知れず。
学校の教室では一応矯正視力とは言え何となく見えづらかったりするし、やはり何より体育の授業がネック。
走ればズレてくる。
跳んでもズレてくる。
球技なんかだと、ぶつかったときには――。
運動自体が苦手な私には酷すぎる時間だった。
かと言って、コンタクトレンズに切り替えるという気持ちも薄かった。
母がコンタクトレンズを入れるときに、本当に目に指を入れているように見えてしまって何となく怖いと思ったことと、その母が毎日付け外しをめんどくさそうにしているのを見ていたら、そのまま敬遠してしまったという感じだ。
――結局、そんな母も最近は、とうとうコンタクトレンズを止めてしまっている。
「……ん?」
「ううん、なんでもない」
西日が差し込む教室。
そんな生粋の眼鏡ユーザーな私の目の前に、眼鏡なんか要らないような距離感で、彼が――直也くんが笑っている。
さわやかな雰囲気しかしない、少し茶髪っぽい色合いのショートヘアはふわりと揺れた。
言わなくても、分かる。
彼が今思っていることは、分かる。
きっと――。
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